Destination Beside Precious
第12章 10.Don't Leave One Alone Ⅰ
「ねぇ汐、来週の鮫柄の追い出し試合一緒に見に行きましょうよ」
「いいよ。けど璃保が鮫柄に行きたがるなんて珍しいね」
修了式とホームルームが終わって璃保と汐は部活へ行く支度をしていた。
つい先日卒業式だったはずなのに、日付はもう3月半ばまで進んでいた。
春の陽気を感じる日が多くなってきて、積もっていた雪も溶けて街の角に残雪を見る時期になった。
「追い出し試合の最後に次期部長が任命されるからね。アタシはそれが気になる」
「あーそっか。鮫柄の次の部長は璃保のパートナーだもんね」
「ちょっとその言い方」
鮫柄とスピラノは何代も前から合同練習を行ったりと何かと付き合いがある。
両校の仲が険悪だと合同練習を行うことが出来なくなるから部長の璃保は鮫柄の次期部長と良好な関係を築かなければならない。
「骨のあるやつが部長になってほしいわ。じゃないとアタシの言いなりになって、向こうにとってマイナスになるからダメだわ」
「さすが璃保だね」
合同練習は相互利益のもと行われている。
スピラノの利益は言うまでもなく、鮫柄にとっても例え女子でも全国トップクラスの選手が集まっているスピラノとの合同練習はいい刺激になる。
「そういえばアイツ、4月からこっちの学校に通うんだって」
「え?だって今鯨津高校に通ってるんだよね?あそこって確か男子も女子も水泳強豪校なのに…。なんで?」
「さあ?アタシにもアイツの考えてることが分からないわ。進路決まったんじゃない?」
アイツ、とは璃保の彼氏のことで現在は東京の水泳強豪校に通っている。きっとその実力を買われていち早く高校卒業後の進路が決まったのだろう。
璃保も汐もそれで納得した。
「でもアイツ、誰にも言わないでほしいって言ってた」
「え、それあたしに言っても大丈夫なの?」
「んー汐はいいみたい。けど夏貴には言わないで欲しいって」
「そっか、わかった。けど夏貴、帰ってくるって知ったら喜ぶと思う。部活でもSCでもすごく仲良くしてもらってたし」
夏貴は実力主義だ。先輩に対して敬意は払うものの実力が伴っていなければ必要以上に関わらない、そんな人。
彼は、そんな性格の夏貴が認めた数少ない先輩。
彼も夏貴と似通ったところがあってふたりは仲が良かった。
「申し訳ないけど夏貴にも言わないでおいてくれると助かるわ。…さ、部活行きましょ」
「わかったよ」