• テキストサイズ

Destination Beside Precious

第12章 10.Don't Leave One Alone Ⅰ




「卒業ってもなぁ…」
凛は苦笑いを浮かべながらベッドに身を投げる。

「引退はまだですからあまり実感は湧きませんね」
椅子に座ったまま似鳥は凛の方へ体を向けた。


3月1日。高校の卒業式。
3月といっても雪はまだ残っており桜の蕾もまだ固い。
春の息吹を感じるにはまだ早かった。
3年の部員が引退するのは3月下旬にある伝統の追い出し試合。
似鳥が言った通り、あまり卒業という実感が湧かないというのが本音だった。


(来年は俺たちの番、か…)

御子柴含め3年の先輩たちは卒業した感じがしないと言っていた。
きっと1年後の自分も同じことを言っているだろう。


(…そういえば、あいつは卒業してからどうすんだろ…)

ふと、汐のことを考える。
スピラノも今日が卒業式だったはずだ。
鮫柄もそうだがスピラノはもっと大々的に進学校を謳っている。
大学にしろ専門学校にしろ進学は半ば強制的。


(って、ひとのことよりもまずは自分のこと考えなきゃなんねぇな…)

汐の口から未だに進学の話が出てこないことには気にも留めずに凛は昼寝の体勢に入った。




同じ頃、スピラノでも卒業式が執り行われていた。
汐や璃保たちを始めとする水泳部員は卒業する先輩達の教室へ行き、門出を祝う言葉や思い出話などの雑談を並べていた。

「いやー引退したとはいえ5年間ずっと一緒にいた可愛い後輩ちゃんたちとお別れなのは寂しいね」
「あずみは早々に進路決めて部活に復帰してたから尚更ね」
先代部長のあずみとマネージャーの佳波が言う。

「うちらの後輩になるのは誰かなー」
ふたりは東京の同じ大学へ進学する。
他の3年生部員も水泳強豪校と呼ばれる大学へと進学していく。

「璃保とみーこは大学どうするのー?」
あずみが璃保と汐に話を振った。

「アタシはまだ決めてません」
「まーそうだよねぇ。まだ1年あるし大会だってこれからだしね」
軽い口調であずみは笑う。今度は汐に目線をやった。

「みーこは?」
「あたしは、」
「あずみーかなみー写真とろーよ!」
汐の言葉に重ねるように彼女らのクラスメイトがふたりを呼んだ。

「あー呼ばれた。ごめんちょっと行ってくる」
そう言ってふたりは席を外した。

汐は息をついた。
どこかほっとしてしまう自分がいた。

多分、あの質問には答えることができなかったから。
/ 322ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp