Destination Beside Precious
第11章 9.Love And Wrap That
「こないだは迷惑かけてごめんなさい」
勉強がひと区切りついたところでシャープペンシルを置いた汐は、俯きながら申し訳なさそうに謝った。
汐が倒れた出来事から1週間が経った。学年末テストを控えたふたりは汐の家にて一緒に勉強をしていた。
「いや、気にするな。元気になってよかった」
「うん…。ほんとにごめんね」
「そんなに謝るなよ。汐が苦しんでたら助けるのは当たり前だろ?お前は悪くねぇよ」
平謝りする汐を宥める。
「ううん。あたしが悪いの。…実はああなるの、初めてじゃないの」
「初めてじゃない?」
「元々生理が重くて毎月鎮痛剤飲んでやり過ごしてたのね」
「そうだったのか」
汐の話を聞いて思い出した。
今まで気にもとめてなかったが、毎月同じ時期に汐は具合が悪そうにしていた。
今月も先月も、その前もそうだった。
もっと早く気づいてやればよかったと凛は少し情けない気分になる。
「実は、前に1回生理痛が酷くて倒れて救急車で運ばれたことがあるの。ほんとにこないだと同じように歩いてたらものすごく痛くなって動けなくなっちゃったことがあって…。今回も凛くんがいなかったらあの時の二の舞になってたと思う」
月経に関する知識は保健の授業程度のものしかない。
男には解らない痛みだ。わかってやれないのがもどかしかった。
「その、せ…生理は一生付き合っていかなくちゃならねぇもんだろ?俺になにかできることがあったらなんでも言ってくれ」
理解することができないのなら、せめて力になりたい。
恋人の痛みや苦しみは見過ごせないというのが凛の気持ちだ。
「凛くんほんとにありがとう。それでね、こないだのこと璃保に話して相談してあたしなりに策を打ち出しました」
「?」
「また同じことを繰り返して凛くんに迷惑かけちゃいけないから、今まで避けてたんだけどちゃんと病院行ってきた」
「病院行ってきたのか?」
「うん。それでね、今月からピルを飲むようにしたの」
「は?ピル?」
低容量経口避妊薬、通称ピル。
卵胞ホルモンと黄体ホルモンが含まれており、月経前症候群や月経困難症を緩和する効果がある。
しかしそのような効果を知らない人が大多数であるのも事実。避妊薬というイメージが先行する。
避妊薬と聞くとどうしても性行為を連想してしまうのは男の性だ。ましてや血の気盛んな高校生などまさにその通りで凛も例外ではない。