Destination Beside Precious
第11章 9.Love And Wrap That
「汐、ココア持ってきたぞ。飲めるか?」
血の気のない顔で横になる汐に凛は声をかけた。
「凛くんありがとう…」
笑顔を浮かべてはいるが、悲愴な雰囲気が見え隠れする。
ゆっくりと起き上がった汐を支えてやりながら、凛はマグカップを汐に手渡した。
「これ、あたしがクリスマスにプレゼントした…」
「そうだ」
汐は渡されたカップをみて声を上げた。
汐のクリスマスプレゼントはペアマグカップとアクセサリーだった。
寮生活でプチ遠距離みたいな感じだけど会えない時間もあたしのこと思い出してほしいな、という思いがあると言っていた。
「嬉しい」
そうこぼしながらココアに口をつける汐の頭を撫でてやる。
「なあ、汐…」
「ん…?」
再びベッドに横になった汐の傍らに凛は腰を下ろす。
電話での真琴のアドバイスを頭の中で唱える。
「や…その…こういう、せ…生理でつらいときはどうしてもらうのが嬉しいんだ?」
「え…?」
「だから…その…お前がつらそうだから、恋人としてはなんかしてやりてぇなって思うわけで…」
〝生理〟という単語を言うのはやはり恥ずかしくて少しどもってしまう。
そわそわと落ち着かなさそうに目を泳がせて立ち上がろうとする凛の手を汐は掴んだ。
「凛くん行かないで。あたしのそばにいて…。特別なことはなにもしてくれなくていいから、ただあたしのそばにいて欲しい…」
か弱い声で懇願する汐。
それにときめきを覚えてしまう自分がいた。
そんな状況ではないと分かっているのに、胸の奥がきゅんとするような、甘いピーチネクターのようにとろりとした感情が凛の胸に流れ込む。
「…そんなんでいいのか?」
「うん」
添い寝をするように凛は汐のそばに寝転がる。
「…腰、重いだろ。さするか?」
「お願いしていい?」
「ああ」
汐のことを抱きしめながら凛は腰を優しくさすり始める。
すると、強ばっていた汐の表情が少しずつ綻んでいった。
「凛くんありがとう。すごく落ち着くし安心する…」
凛の優しさとぬくもりに包まれた汐は、心地よさそうに柔らかに言った。
本当にこれだけでよかったのかと凛は不安だったが、その不安もどこかへ消え去った。
やがて、自分の腕から穏やかな寝息が聞こえてきた。
「寝た…か」
自分の胸の中にいるのは、穏やかな表情で寝息を立てる恋人。
凛は汐の頭を軽く撫でながら、額に柔く唇を寄せた。