Destination Beside Precious
第11章 9.Love And Wrap That
「ちょっと、汐…顔色悪いわよ。薬は飲んだの?」
璃保の心配する声に汐は幽霊のように青白い顔で微笑んだ。
「お昼の分の薬はさっき飲んだよ…」
毎月のことだ。大事無い。
と、思いたいところだが今月は薬が効かないくらいの激痛に襲われている。
「大丈夫なの?駅までタクシーで行ったほうがいいんじゃない?」
「今日は駅まで凛くんと一緒に帰る約束してるの」
「そう…?ひとりじゃないんならいいけど…家に帰ってゆっくり休みなさいね」
「うん、わかった。璃保ありがとね」
汐はスピラノの正門前でひとり待っていた。
鮫柄よりもスピラノの方が少しだけ駅から遠い。
少しでも長く汐と一緒にいたい凛が、迎えに行くと言っていた。
市販薬の中で1番強力であるロキソプロフェンが配合された鎮痛剤を飲んだのだが、あまり効いている感じがしない。
「汐、待たせて悪かったな」
声がした方へ視線をやると、凛がいた。
「凛くん…」
いつもなら駆け寄るところだが、走ることができない。
「…?汐、顔色悪ぃぞ…体調でも悪いのか?」
「うん、ちょっと…お腹痛いかな…」
「大丈夫か?途中でコンビニ寄るか?」
「あー…大丈夫…ありがと…」
凛は違う種類の腹痛を想像している。
この時汐は、わざわざ言うのも恥ずかしいと思い本当のことは言わなかった。
具合の悪い汐を慮って凛は荷物を代わりに持って歩く。
沈黙が苦にならない。会話が無くても互いに特に気まずいとは思わない。
それよりも、こんなに顔色が悪い汐は初めてで凛は心配だった。
なにか悪いものを食べたのではないか、こういう症状の時は脱水になるかもしれないからスポーツドリンクを買ってあげようか、そんなことを考えていたとき、不意に自分の手から汐の手が離れた。
「…?」
振り向くと、その場でうずくまる汐の姿。
血相を変えて凛は駆け寄る。
「おい汐!どうした!?大丈夫か!?」
「せ…つ…だからだいじょ…うぅ…」
「…?」
「生理痛だから…」
「せっ…!?」
(生理!?汐にもあったのか…、いや、女だから当たり前か。てか、は、生理痛!?)
男である凛にはもちろん月のものはない。
しかも男子校に通う凛からしたら月経なんて言葉との縁はほぼ皆無だ。
一瞬思考が停止しかけた凛だが、目の前で大切な人が苦しんでいる。
助けてあげなくてはいけない、必死に思考を巡らせた。