Destination Beside Precious
第11章 9.Love And Wrap That
黒服に案内されたのは、重厚なベロア素材のカーテンで仕切られた半個室の席。
天井には小振りなシャンデリアが輝いていて、光が壁とぶつかり席全体に散らばる優美な輝きを魅せている。
テーブルの上には花やキャンドルが飾られており、ロマンティックな空間を演出していた。
「凛くんどうぞ」
そう言って汐は凛に奥に座るよう促した。
汐に促されて座ると、黒服が乾杯のドリンクを訊いてきた。
「乾杯のお飲み物はいかがいたしますか?」
「ジンジャーエールでお願いします」
「俺も同じものでお願いします」
「かしこまりました」
高校生だから勿論アルコールは飲めない。
未成年者やアルコールが飲めない人の為にソフトドリンクも用意されていた。
「俺、なんか緊張してきた」
黒服が去った後、凛は汐にそう告げた。
「どうしてー?」
「ドレスコードがあるレストランなんて来たことねぇよ…」
ホテルのレストランのディナーなど来たことがない。
汐はさておき、自分は場違いなのではないかと萎縮してしまう。
「そんなに緊張しなくても大丈夫。安心して、凛くん今日もかっこいいよ」
シャツにウールのニット、暗い色味のチノパン、内羽根のシューズ。
〝ドレスコードはスマートカジュアル〟としか言わなかったのに、その意図をよく理解した服装だと汐は思う。
流石の一言に尽きる。
「そうか?…さんきゅ」
「失礼いたします」
汐の言葉に凛が安堵の笑みを浮かべた時、控えめな声と共に黒服がやってきた。
「お飲み物をお持ちいたしました」
そう言って2本のジンジャーエールを抜栓して美しい所作でグラスへ注いでいく。
一連の動作には無駄がなく、それを眺めているうちに黒服は一瞥をくれてまた席を後にした。
「じゃあ…」
グラスを手に持ち、胸のあたりに掲げる。
「凛くん、お誕生日おめでとう」
心地の良い音と共にグラス同士がキスをした。
口をつけると、ジンジャーエールの炭酸を舌で感じ、その後に上品な辛さと甘さが広がる。
細長いグラスに注がれた、薄く緑かかったゴールドと溶けるように弾ける炭酸はさながらシャンパンのようだった。
「シャンパン飲んでるみたいだね」
凛の心中を読んだように汐は言った。
そういえば、ジンジャーエールが注がれているグラスはシャンパングラスだった。
「汐はシャンパングラスが似合うな」
「そうかな?」