Destination Beside Precious
第11章 9.Love And Wrap That
吹きつける風が冷たい。
あまり風が強いとセットした髪が乱れてしまいそうで心配だ。
日曜日の午後6時、家族連れや友人と談笑しながら行き交う人、笑顔で仲良く手を繋ぐカップルで周囲は溢れている。
いずれもみな幸せそうで自然に表情が柔らかくなる。
「よ、汐。待たせて悪かったな」
声の主は待っていた人。黒いコートにバーバリーチェックのマフラーで着飾った凛がそこにはいた。
「凛くん!」
「おいおい、走ると転ぶぞ」
白いAラインコートと凛と同じバーバリーチェックのマフラー、特別な日にしか履かないヒールで着飾った汐の姿に惚れ惚れしていた凛は我に返ったように慌てて声をかけ手を差し伸べた。
転ぶことなく自分のもとへ駆け寄り手をとった汐に安堵の笑顔を浮かべながら、彼女に挨拶の抱擁をする。
「お誕生日、おめでとう!」
今日は2月2日。凛の17歳の誕生日。
「さんきゅ、汐」
出会って第一声がそれで、凛は胸がいっぱいな思いだった。
勿論誰に言われても嬉しいものだが、やはり特別な人に言われる〝誕生日おめでとう〟は格別だ。
その言葉自体に魔法がかかっているかのように、言われると笑顔になる。
「悪いな、練習が午後で夜からしか時間が取れなくて」
「大丈夫だよ。練習お疲れ様。部活の後なのに来てくれてありがとう凛くん」
自分の誕生日なのに、〝来てくれてありがとう〟と言ってくれた。
こみ上げるのは嬉しさばかり。それが表情にも表れる。
「寒いし、行こっか」
汐はそう切り出し凛の手を握り直す。
そして凛の手を引いて歩き出した。
「お待ちしておりました。榊宮様」
汐に連れられて来たのは、待ち合わせをしていた駅からほど近いホテル。
受付に立っていた男性が恭しく頭を下げた。
「なんかすげぇ高級そうなとこに連れてきてもらったもんだな…」
クロークに荷物と防寒具を預けたふたりは黒服の後に続いて赤い絨毯の上を進む。
アップヘアにセットされた髪と肩の部分がシースルーになった淡いピンクのワンピースを纏った汐を横目で見る。
汐に予め伝えられていた〝ドレスコードはスマートカジュアル〟の意味がようやく解った。
先日の旅館もそうだったが、汐に連れられて来る場所は本当に自分たちは高校生なのだろうかと疑いたくなる場所ばかりだ。
驚く反面、将来は自分がこういう所へ汐を連れてきてあげようという気になる。