Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
好きな人がいると、こんなに毎日が違って見えるのかと汐は思う。
あたたかな気持ちが胸いっぱいに広がる。
「はやく来年にならないかな」
「おいおい、季節3つすっとばしてもう来年の話かよ」
いきなりそんな突拍子もないことを言い出した汐に凛は困ったように笑った。
「だって凛くんと一緒に花火を見ることなく9月を迎えちゃったでしょ」
「ん、そうだな」
2人が交際を始めたのは8月21日。
そもそも8月ももう終わりだったし、汐の方も全国大会で遠征があったこともあり、一緒に夏祭りに行くことなく9月を迎えてしまった。
「来年は絶対に行こうね!」
「ああ」
約束だな。と凛は無邪気な笑顔を浮かべる汐の額に軽く唇を寄せるた。
大好きな人と夏祭りデート。
少女漫画でもよくあるような定番のシチュエーションだが、そういう王道なものほど胸が弾むのだろう。
かくいう凛も満更でもなく、きっと浴衣を着てくるだろうと、そして浴衣の汐は絶対可愛いだろうと、今から楽しみになる。
「でも、夏祭りの前にクリスマスだな。…イルミネーション、見に行きてぇな」
真冬のクリスマスの記憶は5年も前になる。
イルミネーションに心が躍るのは昔と変わらないが、当時と決定的に違うのは一緒に見る人が恋人だということ。
オーストラリアの真夏のクリスマスだと暑苦しさを感じるイルミネーションも、日本ならそうでもなさそうだ。
夜の帳の降りる中、街を彩るクリスマスイルミネーション。
想像するだけでもロマンチックだと凛は思う。
「じゃ、イルミネーションも絶対に行こうね」
汐は凛に微笑む。
その様子に凛も思わず頬を緩める。
これからの楽しみが1つずつ増えていく。
そのことがとても嬉しかった。
「ん、凛くん時間いい?6時くらいには寮に帰りたいんでしょ?」
凛は携帯を開いて時間を確認した。
16:57と表示されていた。
電車が1時間に2本しかないため、そろそろ汐の家を出なくてはならない。
「ああ。…悪いな、もう帰らねぇと…」
「あっ、気にしないで!…じゃ、あたし駅まで送ってくよ」
そういって汐は凛の脚の上からおりて、空になったグラスをトレイに乗せる。
凛は荷物をまとめだした。
グラスをキッチンに置いてくるから先に外で待ってて、と言われたためその言葉通り先に外で待っていようと凛はひとり階段を下りる。