Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
2つめのミルクとガムシロップを入れている汐に制止をかけた。
黒かったコーヒーがとてもマイルドな色合いになっていた。
ミルクが溶けてマーブルを描いている。
「あたしコーヒーはミルクとガムシロ2こずつ入れないと飲めないの」
「ふぅん、そうかよ。…おこちゃまだな」
「おこちゃまじゃないよ!甘党って言って!」
マイルドなコーヒーをチャイルドと揶揄された汐がぐいっとそれをあおる。
その様子を眺めながら、もうそれコーヒーじゃねぇだろ、と凛は苦笑した。
甘党だと言ってコーヒーよりもミルクとガムシロップの比率の方が高そうなそれを飲み干した汐が上目で凛を見据える。
凛は軽く呆れながらも、ムキになる汐が微笑ましくて目を細めた。
「なにが甘党だよ。...って、ついてんぞ」
そういって凛は手を伸ばす。
そっと汐の唇に触れて、そのこぼれたコーヒーのしずくを指ですくう。
そしてそのまま舐めとった。
「...あっま。よくこんなの飲めるな」
眉を寄せながら凛は舌で唇を湿らせる。
自分のコーヒーを飲みながら汐の反応をうかがう。
「もう、凛くんったら...」
ふいに唇に触れられたからか、汐は頬を紅潮させながら目を伏せた。
長いまつげからのぞく赤紫の瞳がきらきらと光る。
もっと軽い反応かと思いきや、予想外に照れる汐の様子に凛は嬉しくなって思わず頬を緩めてしまう。
可愛い、愛しい。そんな感情が全身に広がる。
「汐、こっち来いよ」
もっと触れたくなってしまって、凛は胡座をかいた自分の脚の上に汐を乗せた。
脚に乗せても苦痛でないサイズ感に凛は更に愛しさを感じる。
遠慮がちにそっと汐を抱きしめた。
それに応じて汐も凛の背中に腕をまわす。
「汐…」
抱きしめる、という行為を受け容れてもらえた凛はそっと汐にキスをした。
自分の唇の下で、ふにゃりと溶けるマシュマロのようなやわらかさがたまらない。
時折コーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。
ちゅっ、ちゅ、と離してはくっつけ、を繰り返す。
ふたりの間に余韻が訪れると、汐が凛の肩に頭を預け、惚けたようにつぶやいた。
「凛くん、すき」
「俺も」
あまいあまい、蜜のような幸福感に包まれる。
彼に、彼女に自分の心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
「ねえ凛くん」
「ん?」
「あたしね、凛くんと一緒に過ごすこれからがすごく楽しみ」