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Destination Beside Precious

第10章 8.Don't Forget Mydear


浦島太郎伝説、助けた亀に連れられて竜宮城へ行き、乙姫と恋仲になった浦島太郎。
彼が帰る時に乙姫から渡された玉手箱。開けることを禁忌とされていたそれを開けてしまい一瞬にして白髪の翁になったというお伽話。

「知ってます」
汐がそう答えると、お伽話の概要を説明する必要が無いと判断した若女将は主題に入った。

「浦島太郎が玉手箱を開けて白髪の翁になったとき彼は、今までの出来事がまるで〝夢〟であったであったかのように思われ、目が覚めたかのように思われた、とあります。その場所が寝覚の床と呼ばれております」

寝覚の床。
川の流れに侵食されて出来た自然地形であり国の名勝。
歌人にも詠まれた名のある場所である。

若女将の話は静かな詩のような響きを持って続く。

「古代中国の思想には五行思想というものがございます。その思想に出てくる四神の一柱に玄武があって、亀は玄武の象徴とされております。亀は冥界と現世を行き来出来ると言われております」

冥界とはあの世、死者の世界。現世とはこの世、生者の世界。
亀はあの世とこの世を繋ぐ生き物であるという古い中国の言い伝えだ。

「この旅館は建設時に寝覚の床の花崗岩が使われたと聞いております。ですから、この旅館は浦島太郎伝説の流れを汲んでいるのです。汐様の亡くなられたご親友であるお方はきっと、亀に乗って冥界から汐様に会いに来たのでしょうね」

若女将の控えめな笑みに話の終わりを理解した。


彼女の話ですべてが繋がった。
この〝夢幻・寝覚之間〟に泊まることは偶然という名の必然であったように思える。

現世と冥界の間にいた海子は、その2つの世界を行き来する亀に乗って、想いを伝えに来てくれたのだろう。
海子はこれで成仏できると言っていた。きっと、全ての願いが叶ったからその亀に乗って冥界へ旅立ったのだろう。

浦島太郎伝説、夢であったかのような本当のこと。
その伝説が宿る部屋に泊まったということは、汐たちが見た夢も〝夢であったかのような本当のこと〟なのだろう。
それを裏付ける証拠が、あの青い花であろう。
夢の中で海子が汐に渡した花。夢から覚めた時にあった勿忘草。
海子の、想いの花。
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