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Destination Beside Precious

第10章 8.Don't Forget Mydear


「汐、泣かないで。短い人生だったけど、わたしは汐と一緒に過ごせてとても幸せだったの」

3歳の時に出会って、同じ幼稚園に通った。
自分と、汐と夏貴の3人で日が暮れるまで遊んだ。
自分が通っていたSCへ見学に来てくれた。
私立の小学校へ入学しても一緒だった。
そこで璃保と出会い、2人が3人になった。
それから3人ずっと一緒だった。
海子、璃保、汐、の3人なら何だって出来ると思っていた。

「大丈夫。汐には璃保もいるし、スピラノ水泳部のみんなだっている。親友って呼べる人、いっぱいいるよ」

3人揃って聖スピラノ学院へ進学して、汐が水泳部のマネージャーをやると言ってくれた時どれだけ嬉しかったことか。
そこで出会ったチームメイトも、みんないい人で、とても恵まれていると思った。

「それに、汐のことを幸せにしてくれる人だってすぐそばにいるでしょ?」

自分が死んでからずっと汐のことを見ていた。
喪失感から虚ろな恋愛を繰り返し、愛し愛されることを知らない汐が心配だった。
けれど、その心配はもういらない。
汐は凛と出会い、初めて恋をした。愛する喜びを知った。
生きているときに璃保に話したこと。
汐の幸せこそ、自分の幸せ。その気持ちは今でも変わらない。

「だから、ね?大丈夫。わたしがいなくても汐の周りには沢山の人がいるよ。身体は死んじゃったけど、わたしは汐の…みんなの心の中で生きてるから」

「うん…うん…」
嗚咽混じりに泣きじゃくる汐の背を凛は見つめていた。
あんなに泣いている汐は初めて見た。きっと、ずっとああやって泣くことを我慢してきたのだと思う。
凛の頬をひとしずくの涙が伝う。
汐と繋いでいた左手を握りしめた。あいた右手で顔を隠し、凛は声もなく泣いた。


「汐、わたしは13歳で自分の命よりも大切って心から思える人に出会えて幸せだったよ。汐、大好き」
そういって海子は身体を離し、涙に濡れる汐の顔を見つめた。
そしてずっと手に持っていた青い花束を汐の手に握らせた。
もう一度、汐を抱きしめ、涙をこぼした。

「これで成仏できるよ。汐、ありがとう。たまには思い出に甘えるんだよ。いい?…次は璃保と、璃保の彼氏と、汐と凛の4人でお墓参りに来てね」

願わくば、汐に幸せを、悲しみとの別れを、永久に。
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