Destination Beside Precious
第10章 8.Don't Forget Mydear
「…最後っていうのは語弊があったかな。これを言ったら驚かれるかもしれないけど、わたし実は浮遊霊だったんだよね」
ごく軽い口調でそう告げる海子は、次の言葉に含み笑いを宿した。
「あと一歩のところで成仏できてなかったみたい。どうせあの世にも逝けずこの世と呼ぶには中途半端なとこに留まってるなら汐の守護霊にでもなりたかったんだけど、それも出来なかった」
「海子…」
「自分が死んだことに納得できなかったわけじゃない。けど、わたしがしたことで結果的に4年間ずっと汐を苦しめていた。それがずっと気がかりでね。知ってるよ。汐は毎年わたしの命日が近くなると悪夢を見ていること。汐の夢に出てきて汐を殺そうとしているわたしはわたしじゃないけど、苦しかったよね。ごめんね汐」
身体が震える。声が出ない。死してなお自分を思ってくれている海子。
汐は足元から崩れ落ちそうになるのを必死に堪える。
「でも、もう汐は大丈夫だよ」
後ろを向いた海子の表情はわからない。
海子は振り向かない。その姿がだんだん遠のき始めた。
「待って!行かないで!!あたし…、あたしずっと海子に謝りたかったの…!だから行かないで!!」
やっとの思いで絞り出した声はとても大きく、海子に自分の胸中を伝えるべく汐は叫んだ。
それは今まで聞いたことが無いくらいの大きな声で、凛は驚く。
凛が何も言えずにいると、海子は歩みを止めた。
しかし振り返ることは無い。
「4年前のあの日…プールに落ちたのはあたし。あたしが全部悪いのに、どうして海子が…」
俯きながら汐は言った。
言いつけを守れずにプールに近づいた。
たとえ不測の事態が起ころうとも、非があるのは完全に汐の方だった。
海子がこの世を去る原因はすべて自分にあった。自分よりも遥かに輝かしい未来が待っていたであろう海子。
悔やんでも悔やみきれず、どう償っていいのかさえわからない。
「…汐がわたしのことを思って謝りたいって気持ちを持ってくれてるだけでわたしは嬉しいよ。けど、〝あたしだけ助かってごめんなさい〟とか言わないでね」
汐は顔を上げた。
海子に心の内を見透かされた。
言いたいことは数え切れないほどあるはずなのに、すべて喉元でつっかえて出てこない。
「どうしてって言いたい顔してるね」
ああ、すべてお見通しなんだな、と汐の隣の凛は思った。
海子は振り返らずに汐の表情を当てた。