Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
通された部屋は、家具がモノトーンとブラウンで統一されたシンプルな空間だった。
凛は既視感を覚える、汐の部屋だ。
鮫柄の凛の部屋の2,3倍はあると思われる、一人部屋にしては広すぎる部屋。
リビングに比べれば物はあるが、かけてある制服以外に生活感を感じさせるものは少ない。
「部屋綺麗だな」
「そうかな?あー、タンスとか置いてないから綺麗に見えるんじゃない?」
「服は全部クローゼットか?」
「制服と部活の服以外は全部衣装部屋だよ」
「衣装部屋?」
どこの屋敷だ、と心の中で汐にツッコミを入れずにはいられなかった。
しかし冷静になって考えると、こんなに家が広いのだから衣装部屋くらいあって当たり前のようにも思える。
「うん。私服は全部そっちにしまってるの」
部活ばっかだからあんまり着る機会ないけどね、と汐は笑う。
「あたしコーヒー持ってくるから凛くん先始めてていいよ」
床に座り、テーブルにワークを出す。
その様子を見届けると汐はキッチンにコーヒーを取りに出て行った。
◇ ◇ ◇
コーヒーとお茶菓子を持ってきた汐と勉強を始めてからどれくらい時間がたっただろうか。
凛は携帯電話を取り出して時間を確認する。
(結構時間経ってたんだな)
16:30を少し過ぎた頃だった。
時間にしては2時間ほど、お互い教えあったりしてそれなりに有意義な時を過ごせたと思う。
携帯電話から目線を外して顔をあげた凛は汐を見つめる。
美人は3日で飽きるという言葉があるが、汐を見てても一向に飽きる気がしない。
むしろずっと見ていたいくらいだ。
と、至極真面目に思うのだが汐には言えるわけが無い。
「どうしたの?勉強、疲れちゃった?」
そんな可愛い汐は凛の視線に気づくと、シャープペンシルを置いて小首をかしげて微笑む。
「ああ。勉強はもう終わりだ」
「あ、終わりにするの?いいよ。たくさん教え合ったからこれで明日の課題テストはお互い満点だねー!」
「だといいけどな」
軽い調子で明るく言う汐に、やれやれと嘆息しながら凛はグラスに注がれたコーヒーを口に含んだ。
「…ねえ、お昼の時も思ったんだけど凛くんってコーヒー何も入れずに飲むんだね」
コーヒーにミルクとガムシロップを入れながら汐は感心する。
「ああ、甘いもん好きじゃねぇからな。…って汐お前そりゃ入れすぎだろ」