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Destination Beside Precious

第10章 8.Don't Forget Mydear


髪や身体を洗い終わって、ふたりは再びお湯に浸かっていた。


180cm近くある凛が足を伸ばしても寛ぐことの出来る広さの浴槽の端で汐は膝を抱えていた。

風呂に入る前に違う話題にすり替えても意味をなさなかった。
一緒に風呂に入るのが嫌だったわけではない。
ただ、緊張してしまうのだ。

横目で見る凛の姿が蠱惑的で仕方が無い。
前髪をかきあげる姿、隆起する上腕二頭筋や三頭筋、浮き上がる胸鎖乳突筋と鎖骨を伝う水滴に、凛は男の色気を溢れさせていて汐の胸は高鳴るばかり。


「ンなに離れてたら一緒に入ってる意味ねえだろ」
「えっ!だって、恥ずかしい…」
「こっちこいよ」
汐の視線に気づいて凛はそう声をかけた。
その声に若干の苛立ちが含まれていることをすぐに理解して汐は少し狼狽えてしまう。

「お前が来ねえんなら俺が行く」
恥ずかしがってモジモジする汐に痺れを切らして凛が近づいてきた。
不機嫌そうな声に竦み逃げることも出来ずにいると、凛に腕を掴まれた。そのまま引かれ、気づいたら後ろから抱きしめられる形で凛の腕の中にいた。

「ったく、手間かけさせやがって」
後ろから聞こえる凛の声が上機嫌なものに変わっていて、汐は思わず表情を柔らかくする。
離れられて不機嫌になって、密着すると上機嫌になる。
まるで大きな子どもみたいだと汐は微笑ましく思ってしまった。


しばらく雑談をしながらお湯に浸かっていると、ふいに凛が顔を覗き込んできた。

「汐、大丈夫か?顔が赤いぞ」
ずっと浸かっていると熱いくらいの温度のお湯だった。
血行が良くなりすぎて頬が上気する。
それにお湯の中とはいえ、凛と素肌が触れ合っている。
そのことにどうしようもなく緊張してしまってさらに鼓動が速くなる。

「少し暑いかも…。凛くんは平気なの?」
「寮の風呂が割と熱めだからな。平気だ」
そっか、と汐は返す。
どくどくと胸の奥が走っているのがよく分かる。

「のぼせるといけねぇし、先上がるか?」
「…うん」
汐の身体を気遣って凛はそう提案した。
その気持ちを汲んで汐はお言葉に甘えることにした。
凛から離れて浴槽から上がる。

「恥ずかしいからあっち向いてて…!」
「はいはい」
タオルを手に取り身体を隠す汐を視界の端に捉えながら凛はまた後ろを向いた。
はずかしがる様子が可愛くて、遠ざかる足音に凛はこっそりと頬を緩めていた。
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