Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
「…!!」
急に意識が覚醒したような、現実的な光が目に差し込んだ。
「あ!汐さん!」
「汐、起きたか」
自分を覗き込む銀髪と泣きボクロの男の子と、赤髪と鮫歯の彼。
ふたりは共に心配そうな表情をして自分を見つめていた。
凛は読んでいた本を閉じて、汐の傍らに腰を下ろし手を貸した。
凛の支えを借りて汐はゆっくりと身を起こす。
「僕、お水もらってきますね…!」
「悪いな、アイ」
相当心配していたのだろう。汐が目を覚ますと似鳥はぱっと笑顔になり、蹴るように扉を開けて出て行った。
遠ざかっていく廊下を走る足音に、残された凛と汐は揃って顔を見合わせた。
「少しは具合良くなったか?」
「具合…」
凛の言葉と同時に重く鋭い痛みが汐の下腹部と腰を襲う。
その痛みに、未だぼんやりとする気分が一気に現実に引き戻された。
休日練習の帰りに凛と会っていつもと同じように会話をしながら駅へと向かっていた。
今日はもともと月のもののせいで体調が優れなかったから薬を飲んでいたのだが、それが効かないような耐え難い痛みに襲われ、見かねた凛に寮で休んでいけと言われて今に至る。
「…」
「その様子じゃ答えはNOだな」
無理すんな、と凛は再び汐に寝るように促した。
「休ませてもらっちゃってごめんね」
「あぁ…。そのことは気にすんな。それよりこの後ひとりで帰れるか?」
「夏貴が駅まで迎えに来てくれるよ」
普段夏貴の迎えは地元の駅までだが、先ほど電話してその旨を伝えたら少し足を伸ばしてくれると言ってくれた。
今日はその言葉に甘えようと思う。
そうか、と言って凛は汐の頭を撫でた。
凛の手が優しくて、たまらず汐は俯く。
凛の、人肌の温かさを求めてぎゅっと抱きついた。
「…どうした?悪い夢でも見たか?魘されてたぞ」
「うん…」
不意を打たれて抱きつかれた凛は一瞬だけ動揺の色を見せたが、普段とは様子の違う汐を心配して柔らかな声音でそう訊ねた。
「…でも、あたしが悪いの…」
〝自分だけ〟こんなに幸せでいいのだろうか。
そんな罪悪感に駆られる。
声の震えは身体まで伝わり、汐の肩が小刻みに震える。
「汐、泣いてるのか…?」
「泣いてないよ」
揺れた声は、涙声と勘違いされた。
しかし汐は泣いていない。泣かない。泣けない。
泣く資格なんて無いと思っていた。