Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
「俺がついてるから、そんなに怯えるな。内容は無理に話さなくていいから、な?」
汐を宥めるように背中をさすった。
理由はわからないが、自分の大切な人が震え戦いている。
話を聞くことよりも、安心させることがこの状況で汐を一番落ち着かせる手段だと凛は判断した。
しばらく無言で抱き合っていると、ふいに扉が蹴破られるように開いた。
「汐さん!お水!持ってきま…」
扉を開けた似鳥の瞳に一番最初に飛び込んできたのは、先輩カップルが抱き合っている光景。
途端に似鳥は顔を真っ赤にしてぷるぷると震え始める。
「しっ…!!失礼しま」
「アイ!いいから。水、さんきゅ」
真っ赤になりながら退室しようとする似鳥を制し、凛は礼を口にして水を受け取る。
「汐、アイが水持ってきてくれたぞ」
「愛ちゃんごめんね、ありがとう」
凛のすぐそばで覗いた汐の表情は蒼白で今にも消えてしまいそうなものだった。
それで似鳥は普通ではない状況だと理解した。
「悪い夢を見たんだとよ」
凛は似鳥にそう告げた。
汐が見た夢。
海子が亡くなってから必ず毎年この時期、彼女の命日が近くなったときに見る悪夢。
あの夢の中で彼女が言っていたことばが呪いのように自分にまとわりついて離れない。
怖くて仕方が無い。どれだけ懺悔しても消えることは無い。
あれが、海子の本心であるような気がして。