Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
「じゃあお茶飲みながら待っててね、あたし着替えてくるから」
「おう。さんきゅ」
そう言って汐はリビングから出て行った。
しん、とした空間に凛はひとり残される。
(やっぱ、お嬢さまじゃねえか...)
ウーロン茶と一緒に出された菓子をかじりながら凛は思う。
ずっと前に汐は自分のことを一般人だと言っていたが、一般家庭の住まいにしては華美でなくとも豪華すぎる。
(汐のやつ早く降りてこねぇかな)
さっき出ていったばかりだがそう思う。
この部屋は独りでいるには広すぎるし綺麗すぎる。
綺麗好きな凛でも、この部屋は余分な物が無さすぎてかえって無機質なものに感じる。
落ち着かない。
◇ ◇ ◇
凛が菓子を食べ終わる頃に汐は降りてきた。
扉を開ける音に振り向くと、そこには細いストライプのシャツワンピース姿の汐がいた。
淡いブルーのベースにネイビーのストライプで丈は膝より少し上で涼しげ且つ可愛らしい印象だった。
「…」
かわいい、と思わずあげそうになった感嘆の声を押しとどめて汐を見る。
考えてみれば汐の私服を見たのは今日が初めてだ。
いつも見ている制服姿や部活の格好とは違って、とても〝女の子〟を感じる。
「凛くんお待たせ。こっちきて」
「あっ、おっおう…」
こっちこっちと手招きする汐の後を追って凛はリビングを出た。
後に続きながらふと凛の頭に邪な考えが浮かぶ。
普段の制服よりも薄手の生地なせいか、胸の膨らみがより目立つ。
いつかチームメイトが汐の胸について言及していたが、確かにその通りだった。
かなり魅力的なサイズだ。
と、ここまで想像した所で慌ててその思考を打ち消す。
相思相愛の彼女とはいえ、こんなことを想像する自分はいくらなんでも気色悪すぎる。
頭の中で汐に全力で謝罪しながら、ひらひらと揺れる裾に胸の高鳴らせ汐の後について階段を上っていく。
「な、なあ汐…」
「ん?」
視線を左右に泳がせる凛に対して、上目で次を促す汐。
「や、あの、その服似合ってるな。可愛い…」
「ほんと?嬉しい、ありがと!」
着替えて降りてきてた汐を見た時に思ったことを口にすると、汐はぱっと花が咲いたように満面の笑みを浮かべた。
女の人を褒めることに慣れていない凛は、それだけで照れてしまい汐のことを見ることが出来ない。
居た堪れない思いを見てぬ振りをし、奥の部屋へと入った。