Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
気づくと薄暗い空間の中にいた。
眼前には深夜の病院を彷彿とさせる長い廊下が続いていて先は見えない。
「ここ…」
背後の扉は押しても引いても開かない。鍵も見当たらない。
扉のガラスから見えるのはただひたすらの闇のみ。
「…っ!さむ…」
自分が置かれた状況が理解できていない汐を次に襲ったのは強烈な寒さだった。
思わず自分の腕を抱くと、覚えのある肌触り。
白いジャージを身に纏っていた。
「この服…」
スピラノ高校のジャージとよく似ている。
ファスナーを上まで閉めて着ていた。
感じる既視感に薄ら恐怖を覚えながら汐は進んでみることにした。
長い廊下。見覚えのあるこの感じ。
裸足で冷たい床を踏みしめる。冷えが足の裏から全身へ駆け巡る。
寒さと気味の悪さで脚が竦む。
廊下から枝分かれするかのようについた扉は怖くて開けることが出来ない。
どうしても見覚えのある、このつくり。
膝が笑っているのに、足が竦んでいるのに、自分の意思に反して立ち止まらなかった。
途中何かが脚にぶつかった。
「いった…」
見るとそれは長椅子だった。汐の脚にぶつかりそれは形を保つことが出来ず無残に崩れる。
長い通路、脆い長椅子。強烈な寒さ。
すべて覚えがある、この感じ。
蘇る記憶と、湧き上がる恐怖。
それを振り払おうと汐は頭を振るが、鼓動は無意識に速さを増す。
永遠とも思える長い通路を歩いていると、薄い明かりが見えた。
暖かくも冷たくもない、そこにあるのは〝無〟そのものであると汐は思った。
しかし、恐怖という感情に苛まれた汐はこの時そこに希望を見出した。
その奥へ行けばこの恐怖から解放される。そう思いながら足を進める。
やがて、長い廊下の終着点にたどり着いた。
「これ…」
その光の先へ進んだとき、思わず汐は眉を寄せた。