Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
「璃保のお祖父さんとお兄さんたちの喜んでる顔が浮かぶね」
「…そうね。恭兄と翔兄もだけど、祖父さんの歓迎のしようは半端なかったわね…」
朝比奈恭一郎、翔太郎。歳の離れた璃保の兄たち。
汐や夏貴にも愛情を注いでくれて、昔よく一緒に遊んでもらった記憶がある。
「あーそうだ、祖父さんって言ったら」
思い出したように璃保は呟くと一旦自分の席へ戻ったかと思いきや、なにやら紙袋を持って汐の元へやってきた。
「これ、祖父さんが汐にって。お年玉らしいわよ。大きさ的にハンドバッグかしら?」
「そんな、申し訳ないよ」
紙袋に入っているブランド名は誰でも知っているようなハイブランド。
汐がこのブランドのアイテムを好んで使っていると知ってか知らずか、璃保の祖父はそれを汐への贈り物として用意した。
「いいのよ。年寄りだからプレゼントに喜んでもらえることくらいしか楽しみがないのよ。申し訳ないと思うのなら、もらってあげなさい」
年寄りの楽しみを奪っちゃだめよ、そう言って璃保は汐に紙袋を押し付ける。
幼い頃から自分たち姉弟のことを、実の孫のように可愛がってくれている璃保の祖父の気持ちを反故にすることも出来ず、汐はそれを受け取った。
「中に夏貴へのプレゼントも入ってるって言ってたわよ」
「夏貴にも、本当にありがとう。お祖父さんに伝えておいて」
「祖父さんの喜ぶ顔が浮かぶわね」
そういって表情を柔らかくする璃保に、汐まで笑顔になる。
「夏貴っていったら思い出した。私立の推薦入試が昨日くらいに終わったらしいわね」
「え、もうそんな時期になるんだ」
と、汐は驚くがもう1月も中旬に差し掛かろうとしている。
推薦入試は一般入試よりも先に実施されるから妥当な時期だ。
「汐のあとをついてまわってた夏貴がもう高校生になるのね」
「そうだね。…高校生、かあ。…あたしたちも、」
〝高3だね〟その言葉を呑み込んだ。
急に胸が締めつけられた気がして、汐は視線を窓の外へ流す。
外では、はらはらと雪の花が舞っていた。
空は晴れている。ついさっきまでは降っていなかったのに、不可解なこともあるものだ。
凪いだ空気に舞う雪の花。汐にはそれが、青空の涙に思えた。
理由を問われると答えられないが、その光景に心を奪われてしまった。
青空が泣いている、声も無く泣いていた。