Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
話をしてるうちにふたりは榊宮家に到着した。
榊宮家、というより榊宮邸と表現する方が正しいと思ってしまうほど立派な家の前に凛は少しだけ足がすくんだ。
そんな凛の様子に全く気づいていない汐は、門を通り庭を抜け、家の扉を開ける。
「凛くん入って」
汐が凛を招き入れる。
彼女を追って凛は家に入った。
汐の家には以前1回来たことがあるが、そのときとはまったく違って見えた。
否、正しくいえば以前来た時は璃保に出迎えられたから家の様子などを見る余裕が全くなかったのだ。
目の前に広がるのは広い玄関。
壁には額に入った絵が飾ってあり、来客を迎える絨毯は色味を抑えたヨーロピアン調の毛足の長いものだった。
左右の壁に備えられたブラウンの靴箱や棚はある程度の高さがある。
全体的に白を基調にした空間だった。
こんなに広い玄関なのに靴が1足も出ていなくて、このまま靴を脱ぎ上がることに対して少し恐れ多いと思ってしまう。
「ドアはオートロックだからそのまま上がってー」
一段高いところに立つ汐は凛を呼ぶ。
無意識に脱いだ靴を端に置いた凛は、ふかふかした絨毯を越えて汐の後に続く。
案内されたのは入ってすぐ左手にある部屋だった。
そこは以前も入ったことのあるリビングだった。
ダイニングテーブルのすぐ側に背の高いワインセラーが置かれているが、あとは必要最低限の家具しかない。
必要最低限というものの、どれも上質な家具であるということは見ただけで分かる。
居間というのはどの家でも多少は雑多なものだと思っていたが、それが覆された。
今自分がいるのは、余分なものが一切置かれていない洗練された美しい空間。
そのせいだろうか、凛には生活感があまり感じられなかった。
「あたし着替えてくるから凛くんそこでちょっと待っててくれる?」
「ああ」
汐に促されて凛はソファに腰をおろした。
とても座り心地のよいソファだと思った。
心の隅の方で、このソファ一体いくらくらいする家具なのだろうかと考えてしまう。
「凛くんなにか飲む?いろいろあるけどなにがいい?」
そういって汐は選択肢を挙げる。
ウーロン茶にルイボスティー、アイスコーヒー、その他諸々凛からしたら違いのよくわからない紅茶各種。
榊宮家は紅茶を日常的に嗜むということに驚いた凛は苦笑いを浮かべながら無難にウーロン茶をいただくことにした。