Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
薄暗くなった室内に胸が騒ぎ始める。
部屋の照明を落とすためにベッドから降りた凛の背の広さに鼓動が速くなり、思わず膝を抱えてしまう。
振り向いた凛は、その姿を見るなり表情を綻ばせて汐に迫った。
「だから、なんでお前は体操座りなんかしてんだよ」
「だ…だって…」
緊張のせいで頬が引き攣る思いだ。
するとそれを見越したようにするりと凛の手が汐の頬を撫でた。
反射的に汐は手を伸ばし凛に触れようとした。
その手を絡め取られてシーツの上に縫いつけられる。
その勢いで汐の身体もシーツに沈められてしまう。
身体が倒れたことにより、折りたたまれた膝は無意識に伸びる。
硝子に触れるかのようなキスをされた。
ふたりは同じタイミングで伏せていた目を開ける。
これからすることに対しての期待や不安、興奮や喜びが綯い交ぜになった色を宿して瞳は揺れる。
互いの瞳には互いしか映らない。
それの口火を切ったのはどちらだろうか。
もう一度唇を重ねた。
汐は目を閉じながら侵入してくる凛の舌を迎え入れた。
熱い蛇のようにうねる舌に口腔内を蹂躙される。歯列をなぞり、上顎の裏側を固く尖らせた舌先で擽られる。
その度に握られている手に力が篭る。
目を閉じて視覚をシャットアウトしているから、他の感覚が鋭利になっていた。
キスの気持ちよさが快感となりダイレクトに伝わる。時折聞こえる粘着質な水音が淫靡な情欲を掻き立てる。
唇の感触を楽しんでると、おもむろに凛の手が服越しに汐の胸の丸みを捉えた。
「ん…っ」
汐の右手を縫い付けていた凛の左手も胸に触れた。
深い口づけを交わしながら服越しに胸を揉みしだかれる。
「ん…っ、んん…、は…ぁん…」
重ねた唇の隙間から吐息混じりの艶かしい声が洩れる。
時たま揉む手に力が加えられると、柔らかな刺激にも敏感になった胸の先端が下着と擦れて思わず腰がうねる。
「脱ぐか?」
こくん、と汐は頷いた。その反応に凛は口角を上げると汐の着ているスウェットの裾を掴んだ。
「…や…っ、はずかし…」
頷きとは対照的に、汐は裾を手で上から押さえた。
男性経験が浅すぎる汐にとって、凛に肌を曝け出すことにはまだ抵抗がある。
「恥ずかしがってるほうが男は燃えるっての、知らねぇのか?」
シニカルに凛は笑って汐の頭を優しく撫でた後、こう続けた。
「汐が恥ずかしいんなら、俺が先に脱ぐ」