Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
「凛くんのお母さんもお仕事忙しかったんだ」
「親戚の手助けもあったが、女手一つで俺達の面倒を見て家を守っていたんだ。仕事も忙しそうだったな」
「…凛くんの家はお母さんが忙しくてもちゃんと家のことやっててすごいね」
「だから、母さんにはいつも感謝してる」
直接言うのは照れくさいけどな、と凛は穏やかな笑顔を浮かべた。
いい家族だな、凛の笑顔を見て汐はそう思った。
昼間少しだけ凛の母親に会ったが、優しそうで凛たち兄妹といい関係を築けていることがわかる。
あたたかい家庭で育ったのが想像に容易い。
とても、羨ましく思った。
「そういえばそろそろ私立高校の入試だな」
「あー、今月の終わりだね」
私立高校の入試は他の公立高校の入試よりも1ヶ月ほど早い時期に実施される。
ただしスピラノは完全中高一貫教育であるから高校からの募集は行わない。
よって入試は中等部である聖スピラノ学院中学校のものである。
「スピラノも今月の終わりなのか?鮫柄と一緒だな」
「そうなの?」
どうやらスピラノと鮫柄の入試休みが被ったらしい。
入試期間中は校内に生徒がいてはいけないらしく、部活は行えず全員帰省を強要される旨を凛は言った。
鮫柄がそうならスピラノも同じであって、以前そのことで璃保が嘆いていた様子を汐は思い出した。
「夏貴はどこの高校受けるんだ?」
「えーどこだろ。まだ考え中って言ってたよ」
そうか、と頷いた。
夏貴の学業成績は文句無しであるということを汐から聞いているから、問題は無さそうだと凛は思った。
少しの間の後、汐はこう切り出した。
「ね、凛くん。入試休み、空けといてくれないかな?」
「おー、いいぜ。デートでもするか?」
軽い調子で凛は返す。
本当に言いたいことはこれからで、汐は軽く俯いた。
そのまま弱いトーンの声でこう言った。
「凛くんと一緒に行きたいとこがあるの。この辺じゃないから、泊まりになっちゃうけど…」
「じゃあ小旅行って感じだな。どこに行きたいのかは知らねーけど、一緒に行こうぜ」
「ほんとに?ありがとう」
凛は快諾してくれた。安心した。
どうしても凛と一緒に行きたい場所があったのだ。
そのことを汐は言わなかったが、汐たちが入学して数年後に中学入試の日程が改訂された。
スピラノの入試休み。1月の終わり。
それは、海子の命日と日が重なるのだ。