Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
凛が風呂に行ってからしばらく経った。
初めて来た凛の実家。凛の部屋。
ところどころダンベルや雑誌が置いてあるが、余分なものが一切置いていない綺麗に整理整頓された部屋。
部屋そのものが松岡凛を主張していて思わず汐は笑ってしまう。
(凛くんのにおいがする…)
膝を抱えると服が顔に密着する。
凛に借りた服から溢れるように漂うのは、ぎゅっと抱き締められるといつもするにおい。
凛に抱きしめられている気分になる。
「凛くん、まだかなー…」
そんな独り言を呟く。するとその呟きに被せるように扉が開いた。
「汐、悪い。待たせたな」
「あー凛くん!」
汐の家に泊まった時よりもラフな姿の凛が現れた。この前と同じで前髪が下ろされていた。
そのまま汐の横を通り過ぎてベッドに腰を下ろした。
「なんで体操座りなんかしてんだよ」
膝を抱えた体操座りでコンパクトになった汐を凛は笑った。
そんな汐に手を差し伸べて言った。
「んな冷てぇ床なんかに座ってねぇで、こっちこいよ」
差し伸べられた手を取ると、ぐいっと引っ張られた。
その動作に、出会ってすぐの頃ぶつかって転んでしまい凛に手を差し伸べられた時のことを思い出す。
あの時〝榊宮〟と呼んでいた声は今〝汐〟と呼ぶ。
そのことがなんだか嬉しかった。
そばに来るよう促されて凛の隣に腰を下ろすと、凛は満足そうに口元に笑みを浮かべた。
そんな凛を視界の端に捉えながら汐は部屋を見渡すと、棚の上に置かれた1枚の写真を見つけた。
「凛くんと江ちゃん、本当に仲良しなんだね」
「そうか?」
汐が見つけたのは凛たち兄妹の幼い頃の写真だった。
江が凛にくっついて、とても幸せそうな笑顔を浮かべている。
「うん。今も昔も、本当に凛くんのこと大好きなんだなって思うよ」
「…ったく。江のやつ、汐にそんなこと話してんのか」
ぶっきらぼうにそう言うが、嬉しそうだ。
その証拠に満更でもなさそうに少しだけ頬を緩めている。
「…親父が亡くなるのが早かったからな。母さんも仕事で、江に構ってやる時間そんな多く取れなかったし」
だから幼い頃はよく凛が江の面倒を見ていたらしい。
汐はまるで自分の過去を見ている気分になった。
幼い頃、汐も同じように夏貴とふたりでずっと一緒に過ごしていた。