Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
心地よいぬくもりに包まれて、時が止まったような錯覚を覚える。
いつまでも、俺のそばにいてくれよ。
そんな声が耳に届いた。
このあたたかさが、永遠になればいいのに。
とても、幸せな夢を見た気がする。
頭を触れられる感覚がして汐は目を開けた。
未だ惚けたままの意識で身じろぐと後ろから声が聞こえてきた。
「お、汐。起きたか」
どうやら凛のぬくもりに安心しきって寝てしまっていたらしい。
凛の手はお腹に回されたままだった。
「…あたしどれくらい寝てた?」
「15分くらいだな。ちょうど俺もうたた寝し始めてた」
「えーうそ、ごめん」
「いや、気にするな」
再び沈黙。基本的に沈黙はあまり好きではないが、凛ならそれも苦にならない。
部屋に響く音は時計の秒針が動くリズムだけ。
声や会話ではなくで、密着した肌のぬくもりを服越しに楽しんでいた。
「晩ご飯なににする?」
「んー、お前」
「あたしはサメに捕食される運命なの?」
「そこはもっと別のツッコミがあるだろ」
「もうちょっと真面目に答えてよ」
「はいはい」
そう言いながら凛は汐の頬にキスをした。
凛の唇が離れると汐は膝から降りて隣に座る。
膝の上の温かさが隣に移動して凛は残念そうに眉を聳やかした。
その顔をじっと見つめる。なんだか凛は出会った時と比べて男の顔になった気がする。
完全ではないが、だんだんと少年の面影が身を潜めてきている。
同じ男である弟の夏貴には見られない雰囲気さえ感じる。
凛は早生まれだから17歳になるが、今年は高校3年生、18歳になる年だ。
そう思うと理由は分からないが、胸の奥がきゅっと締まるような切なさを感じて苦しくなる。
「ねぇ凛くん…」
「ん?」
いつまでもそばにいてね。
さっき見た夢の中で聞こえてきたことばを心の中で呟いた。
声にならない声でそう言って汐はそっと凛の唇に自分の唇を重ねた。
やがて唇を離し、ふたりの間の僅かな距離にむせかえるような甘い余韻が漂う。
香りで表現するならば、アンバーやパチョリ。ウッディでしっとりとして甘い気持ちがふたりを包み込む。
「汐…」
今度は凛に優しく唇を奪われた。
後頭部と腰に手を回されて支えられる。
優しさの中に〝逃がさねぇぞ〟という凛の欲が見え隠れするキスだった。
その気持ちに応えるように汐は凛の服を握ってそれを受け容れた。