Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
チョコレートを纏ったバナナに口を開けてかぶりつく。
一瞬咥えて噛みちぎる。
咀嚼して飲み込み、唇についたチョコを舐めとる。
一連の仕草を凛は眺めていた。
神社という神聖な場所にいるにも関わらず、邪なことが浮かんでしまう。
「凛くんどうしたの?そんなまじまじと見つめて」
凛の視線に気づいた汐は声をかけた。
その瞬間に我に返って思わず赤面しながら頭を抱える。
(な!に!考えてんだよ、俺…)
健全な男子高校生ならある種仕方のないことだが、バナナを咥える彼女によからぬ事を考えてしまった。
汐の頭上にはクエスチョンマークが浮かんで見える。
恥ずかしくて視線が泳ぐ。
「…。あ!わかった」
耳貸して、と汐は凛の肩を叩いた。
凛が屈むと汐は耳に口を寄せて囁いた。
「凛くん、今えっちなこと考えたでしょ。あたしがチョコバナナ食べてるの見て」
「なっ…!ちっ…違ぇよ!!そんなんじゃねぇ!!」
「うそ。凛くんわかり易すぎだよ」
赤面しながら目を泳がせているが、時折チョコバナナを見ていたからわかったらしい。
「うるせぇ!もう食ったろ!行くぞ!」
残りを頬張る汐に凛は声をかける。
ドン引きされるより笑って流される方が倍恥ずかしいことに気づいた。
「なんか雪強くなってきたね」
「この感じだとそのうち吹雪きそうだな」
入口の鳥居を抜けたあたりで、ちらついていた雪が勢いを増してきた。
ふたりは持ってきていた傘をさした。
「えっと、県内全域に大雪注意報…?らしいよ。凛くん」
「あーでもこの雪だとそうだな」
強い風に乗って雪が襲ってくるような気分になる。かなり寒い。
まだ夕方前だと言うのに空は暗くなってきている。
ふいに携帯の着信音が流れ始める。
「電話だ。…夏貴から?」
鳴ったのは汐の携帯だった。どうやら夏貴からの着信のようで汐は応答した。
「もしもし夏貴ー?どうしたの?」
『もしもし姉さん?今雪すごいよね』
「そうだね」
『それで、今から帰るのは危ないから今夜は泊まってけって友達が言うんだけど、姉さん今夜ひとりで大丈夫?』
「あたしは大丈夫だよ。帰路でなにかあったらいけないし、今夜はお言葉に甘えた方がいいよ」
『ほんとに?ごめんね、姉さん』
「いいよ。夏貴になにかあったら嫌だし。ゆっくりしてきなよ」
『ありがと、姉さん。姉さんも気をつけてね』
「うん、ありがとう」