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Destination Beside Precious

第9章 7.Life and non-Life ※


参拝のための列が進んで本殿の前に辿りついた。
賽銭である五円玉を入れて凛は鈴を鳴らす。
乾いた鈴の音の後に二礼二拍手一礼でお参り。

(夢に一歩でも近づける実りのある1年になりますように…)

今年の夏の大会が最後のチャンスだ。
今まで散々迷い続けてきたが、やっと自分の目標に辿りつくことが出来た。
もう迷いなど無い。今年はそれに向かってただ惜しまず努力をするだけ。


粛々とした空気が流れる。やがて伏せていた目を開けると同じく顔を上げた汐と目が合う。

「行こっか」
「ああ」

境内を抜けて凛は汐の手をとる。段差で転んではいけない。

「凛くんはなにをお願いしたの?」
「俺?俺はー…教えねー」
「えーなんで」
「人に教えたら叶わなさそうだから」
「そんなことないよー」
凛くんのケチ、とか言う汐が可愛くて思わず頬がゆるむ。
むくれる汐の頭をあやすように軽く叩くと凛は口を開いた。

「冗談だって。…〝夢に近づける1年になりますように〟ってお願いした」

凛の夢。オリンピックの選手になること。
とても凛らしい願いだと汐は思った。
厚い雪雲に覆われながらも時折少しだけ太陽を覗かせる空。
それを見つめる凛の瞳は強い思いに満ち溢れいて。
眩しい、そんな言葉がぴったりで。
汐は瞳を伏せながら呟く。

「夢、かぁ…」
ぽつり、汐が零した言葉は凛の耳に届くことなく冷えきった冬の空気に溶けていった。

「凛くんなら絶対に叶えられるよ。あたしが保証する」
「そうか?さんきゅ。その為にはお前に傍にいてもらわねぇとなぁ」
「え?あたし」
どういうこと、と汐は目を丸くする。
説明を求めて凛を見つめると、凛は頬を染めながらこう言った。

「汐は俺の勝利の女神だから」

一瞬の間。次の瞬間汐は声に出して笑った。
「あはは…っ!なにそれー!もー、凛くんったらー!」
「な!てめ…っ!笑うなっ…!そういうお前はなにをお願いしたんだよ!?」

照れながら吐かれた気障なセリフに汐はたまらず吹き出してしまった。
眦に涙が浮かぶ程汐は笑ったが、本音をいえば凛がそうやって言ってくれてとても嬉しかった。
自分が凛の勝利の女神たる所以は分らないが、叶えたい夢には自分が必要だと言ってくれた。

ひとしきり爆笑した後、口元に笑みを浮かべて汐は口を開く。

「あたしは、わがままで欲張りだから…」
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