Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
夏貴と汐はよく似ている。
中性的な外見で、15歳にしては顔貌が完成されていて美しい。
初めて夏貴のことを見た時に思わず驚いてしまったことが凛の古い記憶にある。
「そうだったんだ、知らなかった。でも夏貴からは彼女が出来たとか、そんな話聞いたことなかったなー」
彼女はおろか、好きな人が出来たという話も聞いたことがない。
しかし毎年ホワイトデーの時期にせっせと大量のクッキーを焼いてラッピングをしていたことがあった。
今思い返せばもらったチョコのお返しだったのだろう。
自分の弟ながら律儀だな、と今更になって汐は感心する。
「なっちゃんは汐ちゃんのことが大好きですからね!」
中学時代、帰り道によく夏貴から汐の話を聞いていたらしい。
それを江から教えられて、汐は照れ笑いを浮かべた。
「だから夏貴は俺のことが嫌いなんだろうな」
「だからー、夏貴は凛くんのこと嫌いなんかじゃないよ!」
あくまで汐はそう言う。
自分のことを思って取り繕っているのかどうかは定かではないが、凛は汐の言葉を信じることにした。苦笑いを浮かべながら。
「汐ちゃんいらっしゃい」
ふいに扉の方から声がした。
呼ばれた汐は振り向くと、背の高い女性と視線がぶつかる。
彼女は汐に穏やかな笑顔を向けた。
「おふくろ」
おふくろ、と呼ばれた女性。現れたのは凛の母親だった。
綺麗な人だな、と汐は思わず凛の母を見つめてしまった。目元が凛と江に似ている。きっとふたりは母親似なのだろう。
「凛くんのお母様ですか?初めまして。凛くんとお付き合いさせて頂いてる榊宮汐と申します」
品よくお辞儀をして挨拶をする汐に上流家庭の淑女を見た。凛はなんだか照れくさくなってしまう。
「初めまして、凛の母です。そんなに畏まらなくても大丈夫よ」
顔を上げると、優しく笑う凛の母親の姿。笑ったときの目尻が凛とよく似ている。
なんとなくだが凛の母に親近感のようなものを覚えた。
「それにしても凛がこんなに可愛い女の子を連れてくるなんて思ってもみなかった」
嬉しそうに声を弾ませる母に、気恥しくて凛は曖昧な返事をする。
汐を目にした人全員が汐のことを可愛いと褒めるが、汐のことを1番可愛いと思っているのは凛だ。
しかし母や妹の前でそんなことを言えるはずもなく、凛はただ一歩汐のそばに寄る。