Destination Beside Precious
第9章 7.Life and non-Life ※
「さむー…」
汐は傘を閉じた。天気は雪。気温は氷点下。
コートについた雪を払いながら手袋を外す。
そしてインターフォンを押した。
程なくして扉が開いた。扉の影から現れた彼に汐は笑いかける。
「おー来たな、汐」
「凛くんあけましておめでとう」
「ああ、あけましておめでとう」
まるで外国人がする挨拶のように凛は汐を抱きしめた。
軽く額にキスをした後、汐のマフラーを外した。
「寒かっただろ」
「うん寒かった」
「だろうな。ま、入れよ」
手袋してても手が冷たい、と汐は凛の頬を両手で包み込む。
つめてっ、と凛が表情を崩すと汐もつられて頬を緩めた。
「お邪魔します」
履いていたブーツを脱いで、凛の後に続いて家の中に入る。
玄関のすぐ左の部屋に案内された。
「あー!汐ちゃん!」
「江ちゃんあけましておめでとう」
姿を見るなり抱きつかんばかりの勢いで江は汐の元へやってきた。
「あけましておめでとうございます。汐ちゃん久しぶり!」
「ね。10月以来かな?」
「そうだね。なっちゃんは元気にしてますか?」
「夏貴も元気だよ。今日は前住んでたとこにいる友達のとこに遊びに行ったよ」
江は嬉しそうに汐に話しかけている。
汐のコートとマフラーをハンガーにかけながら凛はふたりが仲良く会話をしている様子にこっそり頬を緩めた。
「夏貴、江に〝なっちゃん〟って呼ばれてるのか?」
「そうだよー。凛くんも今度会ったらそうやって呼んでみなよ!」
「いや、俺がそうやって呼んだら多分今後口を利いてもらえなさそうな気がする…」
夏貴が自分に向ける瞳を凛は思い起こす。
澄んだ茜色から想像出来ないくらいの冷ややかさ。絶対零度と表現してもいいだろう。
「なっちゃんはそんなに冷たい人じゃないよー!」
「江は夏貴のこと知ってるのか?」
〝なっちゃん〟と呼んでいるあたり、仲が良いことが窺える。
「帰り道が一緒だから昔はたまに一緒に帰ったりしてたの。それに佐野中でなっちゃんのこと知らない人はいなかったよ」
「えー夏貴ってそんなに有名人だったの?」
汐が目を丸くしながら言った。
「1年の頃から大会に出てよく全校朝礼とかで壇上に出て表彰されてたんですよ。それに汐ちゃんとよく似て顔が整いすぎてるから女の子にもすごい人気でしたよ!」