Destination Beside Precious
第8章 6.Dye Your White ※
「いい匂い…?」
「…」
答えは返ってこなかった。
服越しに汐の匂いとぬくもりを感じる凛は気持ちよさそうに目を細める。
やがて汐を解放した凛はそのまま頬に触れた。
ぴくりと肩を震わせる姿に凛は頬を緩めた後、唇を重ねた。
「…んっ」
1回では終わらないキスだった。
呼吸の為に僅かな距離をとってもすぐに塞がれてしまう。
薄く唇を開いて軽く唇を食みながら、啄みながら、でも舌は絡めない。
凛も汐も互いの唇の感触を楽しんだ。
「どんな匂いがするの?」
「…たまらない。この匂いすげぇ好き。汐のこと、このまま食っちまいてぇって本気で思う。そんな匂い」
イランイラン。
濃厚で甘く煽情的な香りが特徴。
官能的な気分を高める催淫作用がある。
好みが分かれやすいが、好きな人には病みつきになる香り。
何も言わずに凛に抱きついて胸に顔を埋める。
凛の胸の音は、自分と同じくらい速く鳴っている。
この逞しい胸に身を預けたい。
服越しではなくて、素肌の温もりを感じたい。
「ね、凛くん」
凛にしなだれかかり手を握る。その手を自分の左胸まで持っていく。
突然胸を触る形になった凛は目を泳がせながら頬を染めている。
可愛い、愛しい、大好き。
そんな想いが溢れる。
もっと触れたい。もっと触れて欲しい。
「あたしのここ、すごくドキドキしてるの、わかる?凛くんと一緒だね」
まるで内緒話でもするかのように凛の耳に唇を寄せる。
「…食べてもいいよ?あたしのこと」
本能と理性の間で揺れるルビーをじっと見つめる。
凛の喉仏が上下に動いたのがわかった。
「いいのか」
喉の奥から洩らされたような声は心做しか震えているようにも思えた。
汐を見つめる凛の瞳は男のそれで。
同じように凛を見つめる汐の瞳は女のそれで。
神聖な誓いを立てているような錯覚に陥る。
汐は無言で頷いた。
「汐」
汐の頬に凛の手が添えられた。
ゆっくりと近づく凛の顔に反射的に目を閉じる。
「ありがとう」
優しい接吻(くちづけ)。
アガパンサスの花が咲く夏の終わり、初めて凛としたキスと同じものだった。
これからすることに対しての不安と緊張を和らげようとしてくれているのが伝わる。
それは紛れもなく凛の愛情。
こんなにも凛は自分を大切に想ってくれている。
ならば今夜は自分のすべてを凛に委ねよう。