Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
「なあ汐」
「ん?」
注文した料理をひとりで完食し、残すところ食後のデザートだけとなる。
ティラミスを前に目を輝かせる汐に凛はひとことこう言った。
「お前、ほんとによく食うな」
「!?」
ぐ、とティラミスを食べようとフォークを握る汐の手が止まる。
「そ、そこには触れて欲しくなかったかな...」
スピラノ水泳部にイコールをつけるのなら、女傑の長身美女軍団。
さらにもうひとつイコールをつけるのなら、 大食い美女軍団。
急にしおらしくなってしまった汐は恥ずかしそうに頬を染める。
「ま、俺は」
凛は汐の手からするりとフォークをとる。
「うまそうに飯食うやつの方が好きだけどな?」
シニカルに笑い、ティラミスを切り分け汐の口元に運ぶ。
なによ、楽しそうにして。と汐は上目で軽く凛を見据えたあとそのティラミスを一口で食べた。
口に対して凛が切り分けた分が少し大きかったのか、もごもごと咀嚼する汐の頬が膨らむ。
その様子を見て凛はぷっと吹き出した。
「ほっぺ膨らませてもごもご食ってるお前、リスにしか見えねぇ」
ほら、頬袋膨らませてるやつ。と鮫歯を見せて笑う。
「え、あたしリスなの?あのシッポふさふさな?」
「ああ。シマリスだ。だから今の、餌付け」
「なにそれー!」
怒ったような素振りで凛に文句を言ったあと、凛と汐はお互い顔を見合わせて笑った。
何気ない会話も楽しい。一緒に喋ってると自然と笑顔がこぼれる存在だと、凛と汐は思った。
「この後どうする?」
ティラミスを食べ終わった汐はアイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れながら訊ねた。
「俺は家に帰ろうと思う」
それに対してコーヒーはブラックのままな凛は答えた。
「家...。寮?」
ミルクとガムシロップを2個ずつ入れたコーヒーをストローで混ぜながら汐は再度訊ねる。
「いや、実家」
「佐野町の?何しに?」
「物を取りに」
「物?それならおうちの人に寮に郵送してもらえばいいんじゃない?」
至極合理的な答えを口にしながら汐はコーヒーを飲み始める。
しかしわざわざ取りに行かなければならない理由が凛にはあった。
「この前帰った時に持って行った宿題を実家に忘れたからそれを取りに行く」
課題テスト明日だしな、と凛は付け足す。
「じゃあ課題取りに帰った後あたしの家にこない?」
一緒に課題テストの勉強をしようと汐は提案した。