Destination Beside Precious
第3章 1.The Honey Moon
「へえ、鮫柄は今日始業式のあと防災訓練だったんだね」
カラン、とグラスの中氷が水と混ざる音がした。
汐は口を湿らせる程度に一口水を飲むとテーブルにそれを置いた。
「ああ。汐のとこはやらなかったのか?」
凛はアイスコーヒーにストローをさす。
2学期最初の日ということもあり、この日の学校は鮫柄スピラノ両校とも午前中で終わりだった。
さらに部活もオフだからふたりで会おうということになった。
「うん。あたしのとこは始業式と部長任命式とホームルームだけ」
「その割には学校終わんの遅かったな」
「そうなの、ホームルームが延びてね」
正午前には学校が終わるはずだったのに、担任の夏休み中の旅行の話が盛り上がってしまい30分近くホームルームが延びたのである。
璃保が頬杖をついて居眠りしていたのを汐は思い出した。
「ねぇ凛くん、防災訓練って何したの?」
「ホース使って放水訓練」
一度グラスに落とした目を汐に向ける。
そして気づく。
真面目な顔をして汐はじっと凛を見つめていることに。
「ん?どうかしたか?」
「凛くん、それウケ狙った?」
「は?」
意味がわからない、といった顔をする凛に汐は表情を変えずにこう言う。
「〝ホース使って放水訓練〟…」
「はっ?…あぁ、ちげぇよ。んなわけねぇだろ」
何の意味もなく内容を話しただけなのにおやじギャグと捉えられてしまい凛は眉を寄せる。
そして、アホか、と凛は言いながら汐のおでこに優しめにデコピンをかました。
痛い!と文句を言いながら汐は自分のおでこを押さえた。
その様子が可愛らしくて、先程の眉間のしわはどこへやら、凛は思わず口元を緩める。
「汐がくだらないことを言うからだろ。…ほら、料理来たぞ」
ちょうどそのタイミングで店員がお待たせしましたと言ってテーブルに料理を運んできた。
汐の前にドリアやサラダ、セットの小さなフォカッチャが並ぶ。
「凛くんほんとに何も食べなくていいの?」
「ああ。俺は寮の食堂で昼飯食ったから気にすんな。ほら、腹減ってんだろ?食えよ」
「うん。じゃ、いただきまーす!」
予定よりも学校が終わるのが遅かった汐は何も食べずに凛との待ち合わせに向かったから、お腹を空かせていた。
ちょうどお昼の時間であるし、少し遅れてきたことから汐が昼食を食べていないことに凛は気づき近くのファミリーレストランに誘ったのである。