Destination Beside Precious
第8章 6.Dye Your White ※
湯船に浸かりながら汐は浴室の天井を眺めていた。
いつもよりも入念にボディのケアをした。
髪もいつも以上に丁寧にトリートメントを施した。
息をつく。目を閉じる。
先ほどの凛の笑み。汐の目にはとても官能的に映った。
ゆっくり温まってこいよ、別の捉え方をすれば、心の準備をしてこいよ。
考えすぎかもしれない。しかし汐にはそうとしか思えなかった。
浴室に充満する甘い香りに頭の芯が蕩けそうな感覚に陥る。
凛が出た後自分が入る前にアロマオイルを入れた。
昨日〝凛が出た後アンタが入る前に入れなさいね〟という言葉と共に璃保からもらったもので、イランイランという花の香りがするものだった。
このアロマがどんな効果を持つのか汐にはわからないが、璃保からの贈り物であるからきっといい効果や効能があるのだろう。
ふと凛と出会った時のことが蘇る。
ちょうど8ヶ月前だ。4月の終わり、たまたま自分が凛の携帯を拾ったのがきっかけだった。
持ち主に返してあげるためにごめんなさいと思いつつ電話帳を見てよかった。
そしてその持ち主が凛でよかった。
あの時落ちていた携帯を拾っていなかったら、多分今の関係にまでなっていなかったと汐は思う。
凛はたくさんの〝初めて〟を教えてくれた。
今夜は自分が凛に〝初めて〟をあげる番だ。
ざぶん、という音と共に汐は湯船から上がった。
浴室から出てバスタオルに身を包む。
身体は充分温まっているし、しっとりとしている。
保湿効果と温浴効果のある入浴剤をいれた。
まだ誰にも触れられたことの無い肌。これから凛に触れてもらう肌。乾燥していてはいけない。
身体からエキゾチックな甘い香りがするのがわかる。
下着を身につけ、ルームウェアを手に取る。
花柄でマキシドレスタイプのルームウェア。胸下切り替えでバストラインを綺麗に見せてくれるもので胸元や裾に施されたフリルが女の子らしくて汐は好きだった。
ルームウェアの上に羽織ったガウンは世に云うところ、ふわふわモコモコで肌触りがよくて気持ちがいい。
下着もルームウェアも可愛いものを新調した。
凛に可愛いと思ってもらいたいから。触れたいと思って欲しいから。
今夜は〝特別〟だということを凛は理解している。
凛だけじゃなくて、ふたりで最高の思い出にしたいと汐は思う。
凛と出会えてよかった。凛を好きになってよかった。