Destination Beside Precious
第8章 6.Dye Your White ※
「汐、風呂空いたぞ」
「あー、うん」
自室で待っていた汐は顔を上げる。
部屋に入ってくる凛の髪がまだ濡れていた。
「凛くんちゃんと髪乾かなさないと風邪ひくよ?」
「一応汐にひとこと言ってからドライヤー借りようと思ってた」
「そうなんだ。自由に使っていいよ」
立ち上がり凛に歩み寄る。
グレーのスウェットパンツに長袖のインナー、少し厚地のパーカーに着替えた凛。濡れた髪から裸足の爪先まで視線を一往復させる。
「凛くんって寝る時もおしゃれなんだね」
「いや、今日だけな。つか床あったけーな」
「あー、床暖房入れといたの」
あったけー、と洩らしながら凛は足をくっつけたり離したりして床暖房を楽しんでいる。
その様子に少し頬を緩めながら凛に抱きつく。
「凛くんもあったかーい」
「なんだよ。今日はすげぇ甘えてくんな」
「それは凛くんもでしょー」
「うっせぇチビ」
赤ちゃんか、と笑いつつ汐の頭をぽんぽんと撫で、空いた片手で腰を抱く。
凛の胸に顔を埋めながら服越しに凛の体温を感じる。
とくん、とくん、と静かに聞こえる胸の音が心地いい。
汐の頭を撫でた手はそのまま腰へ下ろされた。
「ほら、汐も風呂入ってこい」
「はーい」
凛から離れると汐は自室の扉を開け、ついてくるよう促した。
廊下には床暖房が入っていない。後ろから聞こえるつめてっ、という声にこっそり笑いながらか階下へ向かう。
階段を下りて左に進む。そこから突き当たりを左に向かってスライド式の扉を開ける。
人の存在を察知した洗面所はひとりでに明かりをつけた。正面の鏡には自分と凛の姿が映る。
「ドライヤーはこれね。こっちの棚に流さないトリートメントとかあるから使いたかったら使っていいよ」
「汐のか?」
「これとこれがあたしので、こっちが夏貴の。あとのはお母さんのかな?」
話しながら汐はトリートメントのボトルを並べる。
「夏貴も使うんだな」
「うん。塩素で髪が傷むのが嫌なんだって」
「それは俺もわかる」
「凛くんも使うんだね」
「…お前も俺の髪が塩素でギシギシに傷んでたら嫌だろ?」
「それもそうだね」
トリートメントのボトルを眺めている凛を後目に脱衣所の扉を開ける。
「汐」
凛の声に呼び止められた。
振り返ると、含み笑いを浮かべた凛の顔。
とても妖艶に見えた笑みだった。思わず胸が鳴った。
「ゆっくり、温まってこいよ」