Destination Beside Precious
第8章 6.Dye Your White ※
「そういや家入った時から思ってたんだが、いい匂いするな。飯の…」
「あー、晩ご飯作ってる途中なの」
ご飯という単語を発したら、凛の表情がぱっと明るくなった。
とても嬉しそうだ。胸の奥がぽかぽかとする。微笑ましい気持ちに包まれる。
階段を下りてすぐ右の扉をあける。
リビング、ダイニング、キッチンがひと続きの広すぎる間取りの部屋。
夕食作りを再開させようとキッチンに向かう。
味噌汁はもう出来たし、あとはメインを作るだけだ。
「あと30分くらいで出来るから凛くんはあっちで座ってテレビでも…、って凛くん」
「なんだ?」
背中が暖かい。ぎゅっと密着しているのがわかる。
「あのね?危ないからあっちで座ってテレビでも見ててほしいんだけど」
「いやだ」
あくまでも離れようとしない凛。今日はいつになく汐に甘えてくる。
「あのね凛くん、正直に言っちゃうと料理してる時にぎゅってされるとちょっと邪魔だし危ないのね」
「なら俺も手伝う」
そういって凛は汐から離れた。
手伝うと言った矢先に、キムチじゃねぇかと言って用意されていたキムチをつまみ食いし始めた。
「もう、凛くんつまみ食いしないの。手伝ってくれるんだったら、そこのボウルに入ってるサーモンとキムチを混ぜて欲しいな。つぶしちゃダメだよ」
凛が言われた通りにやり始めたのを見届けたあとに汐は冷蔵庫に入っていた豚バラ肉を取り出した。
それを予め温めておいたフライパンに放り強火で火を通していく。
「なんかすげぇいい匂いするな」
肉を焼く音と匂いにつられて凛は汐の方を見た。
キムチとサーモンを混ぜ終わった凛は、汐の指示で生野菜をお皿に盛り付け始めた。
火が通った肉を今度は圧力鍋に移して香味野菜を入れていく。
「それはなんだ?」
汐が持ったボトルが気になったらしく凛は声をかけてきた。
「料理用の白ワインだよ」
「汐の家って調味料なんでも揃ってるんだな」
凛には汐の手際がシェフのように見えた。
白ワインやオリーブオイル、ハーブソルトを料理に使う高校生はなかなかいない。
「ほんとにもうちょっとで出来るから凛くんはあっちで待ってて!」
凛にお礼を言ってリビングのソファに座らせる。
あと15分待てばメインが出来る。サイドの最後の仕上げは自分がやるから凛には待っていてほしい。
今日は自分がおもてなしをするのだ。