Destination Beside Precious
第8章 6.Dye Your White ※
「お邪魔します」
凛の声と扉と鍵がしまる音。
途端に鼓動が速くなるのを感じてしまう。
〝今夜はふたりきり〟を意識してしまう。
「凛くん荷物、客室かあたしの部屋かどっちに置いとく?」
「あー、お前の部屋に置く」
凛を先導して汐は階段を上がる。
ふたりの間に流れるのは、トントンとリズムのよい足音と少しだけ張り詰めた空気。
夜がやってくるまでまだ少し時間があるというのに、心臓は先走ってどくどくと早鐘のように鳴る。
汐は緊張していた。家に着いてからというものの、凛の顔をまともに見ることが出来ない。
「荷物、この辺に適当に置いといてね」
凛を自室に通し荷物を置くように促す。
隅々まで掃除の行き届いた部屋。今夜のために昨夜掃除した。
開けられたカーテンからは宵と夕のグラデーションがのぞく。月と太陽がバトンタッチをしようとしている。
綺麗だ。思わずじっと見つめてしまった。
「なぁ汐」
なに、と言おうとした瞬間腕を引かれ腰を抱かれ唇を奪われた。
一瞬だけお腹の奥がきゅんとするような感覚に襲われる。
顔を上げると、にやにやと鮫歯を覗かせた凛が面白そうに笑っていた。
「お前、緊張してるだろ」
「な、してないよ!」
「嘘つくな、わかり易すぎだっての。さっきから俺の顔を見ようとしねぇし。喋り方も浮ついてんぞ」
顔に全身の血液が集まっているみたいだ。図星過ぎてなにも言えない。
代わりに凛の背中に腕を回す。胸に顔を埋める。
「…、逆に凛くんはどうしてそんなに余裕綽々、なんですか…」
「ばぁか。今だけだっての」
ハハッと笑う凛が憎たらしくて大好きで、軽く握った拳で胸を叩く。
顔が熱い。耳が熱い。
家に招いたのは自分なのに、自分の方が緊張してしまっている。
クリスマスの夜、ステンドグラスの光を浴びた美しいプールをバックに凛は汐を求めた。
とても神聖な雰囲気の中でのそれは、神の前で誓いをたてているような感覚に襲われた。
静かに懇願する赤に宿るのは、汐に対する揺るぎない愛情、理性に見え隠れする情欲。
その瞳に射抜かれた。
ずっと待っていた。凛の方から自分を求めてくれることを。
クリスマスの夜、凛が吐露した気持ち。そしてその応え。
汐は凛に今夜自分の〝一生に一度の思い出〟を捧げる約束をした。