Destination Beside Precious
第7章 5.Illuminate The Darkness
「おいっどこ行くんだよっ」
「いいからついてきてー」
来た道を戻ったと思いきや、今度はどんどん学校の内部へ向かっている。
凛の顔に困惑と焦りの色が差す。
「男の俺がこんな女子校の内部にいたら確実に警備員に捕まるだろ!」
「あー大丈夫だよ。そのときはあたしがなんとかしてあげるから!」
「なんとかするって…やっぱダメじゃねえか!俺を社会的に殺す気か!?」
「もー、凛くんそんなに騒いでると本当に警備員の人来ちゃうよ?」
汐にそう言われて凛は思わず口を噤む。
黙ってついてこい、ということだろうか。
凛はそう解釈して、何も言わず汐に着いていくことにした。
鮫柄と同じくらい広い敷地内を汐に手を引かれて歩いていると凛はふと既視感を覚えた。
暗くて周りの景色はよく見えないのだが、この周囲の建物の雰囲気に覚えがある。
以前も来たことがある、この感じ。確か、この角を曲がると…
「このへんって確か、俺と汐が初めて出会った場所の近く…だよな?」
「覚えててくれたんだ、嬉しい。そうだよ、この角でちょうど凛くんとぶつかったんだよね」
「やっぱりそうか」
そうだ、この角で出会ったんだ。
突如あのときの出来事が走馬灯のように蘇る。
春の陽射しが暖かな日だった。ぶつかって、目が合って鼓動が跳ねたのを思い出した。
ちょうど8ヶ月前だ。あれ以来このローライドガーネットに瞳にとらわれている。
あの時自分に携帯を握らせた小さな手を今は握っている。
「凛くんがあたしのことを、さかきのみ」
「その話はもうやめろ」
汐の言葉に自分の言葉を重ねる。もうその話はしないでほしい、恥ずかしい。
それを誤魔化そうとして、汐に先を促した。
「ついたよ」
見上げると、大きなドーム状の建物。スピラノの屋内プールだ。
どこからともなくキーケースを取り出して、扉の鍵を開ける。
オフホワイトのキーケース。汐の手からのぞいたブランドのロゴで、やはりスピラノに通っているだけのことはあると思ってしまった。
建物内に入ると、汐にスリッパに履き替えるよう促された。
靴を脱ぎスリッパに足を通して、通路を進む。
左手に白亜の小さなマリア像があった。
薄暗い中で見るそれはなかなか迫力があり思わず喉が動く。
「凛くんに見せたかったものはこれ」
まっすぐ通路を進んだ先の大きな扉。
汐はひとつ息をついた後、両手でその扉を開けた。