Destination Beside Precious
第7章 5.Illuminate The Darkness
「すげ…」
思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
突如現れた光のトンネルを汐に手を引かれながら抜けると、正門よりも遥かに絢爛なイルミネーションが目に飛び込んだ。
巨大なクリスマスツリーに色とりどりの光が散りばめられて聖夜を飾る。
植え込みやベンチ、噴水や芝生でさえも正門と同じように宝石箱をひっくり返したような輝きを纏う。
目線を奥に向ければ光のオブジェが存在を主張している。
光の海とは正にこれのことを云うのだろう。
聞けば全国のイルミネーションをやっているの学校の中で5本指の中に入る規模らしい。
「綺麗でしょ?」
「ああ…」
汐からの問いかけに惚けたように答える。
イルミネーションを見つめる凛の手を握り直して、汐は凛に寄り添う。
「不思議だね…。何年も同じものを見てきてるはずなのに、今年は何倍も綺麗に見える」
薄く微笑んだ汐の唇から白い吐息が漏れた。
「きっと、凛くんと一緒だから…だね」
こんなに幸せなクリスマスの夜など初めてだ。
イルミネーションを見つめていた凛は汐の方へ視線を移した。
聖夜の帳の降りる中、色とりどりの光で照らされた凛の顔はなんて艶やかなのだろう。
その唇が微かに動いた後、ゆっくりと顔が近づく。
反射的に目を閉じる。その直後に唇は重ねられた。
音のないキスだった。やわらかに溶けるような感触に胸の奥が火を灯したように温かくかる。
「可愛いこと言うじゃねえか」
そっと唇を離して、凛はそう囁いた。
互いの吐息がかかる距離、鼻と鼻がキスをする距離。
ルビーとローライドガーネットがじっと見つめ合う。
「ロマンチストな凛くんを思って、ね」
「ばぁか」
いたずらに笑う汐はそう囁く。
その笑顔につられて笑顔になった凛は、汐に反論しつつもう一度唇を重ねた。
クリスマス、イエスキリストの生誕祭。
汐自身は無宗教だが、凛と寄り添ってこの瞬間を迎えられることを感謝した。
「…そうだ、凛くんと一緒に見たいもの、もうひとつあるんだ」
どれだけの時間をイルミネーションの前で過ごしただろうか、汐はおもむろにそう切り出す。
「俺と一緒に見たいもの?」
「うん。今夜みたいに晴れてて月の明るい夜ならたぶん見れると思うの」
こっちだよ、汐はそう言って凛の手を引いて先ほど通り抜けた光のトンネルを戻り始めた。