Destination Beside Precious
第7章 5.Illuminate The Darkness
「…ついた」
凛の唇から白い吐息が漏れた。
腕時計で時刻を確認する。もうすぐ午後6時。
見上げると高い柵に囲まれた白く美しい建物。門は開いている。
(…やっぱでけーな)
クリスマスの夜を彩るのは、宝石箱をひっくり返したような絢爛なイルミネーション。
私立聖スピラノ学院。凛は汐を迎えにきた。
今夜は時間の経過がやけに遅く感じる。汐から学校が終わったというメールを受けてからまだ10分しか経っていない。
汐を待つ凛の胸が鳴る。珍しく緊張していた。
思えばこうして学校まで汐を迎えに来るのは初めてだった。
黒いシャツの上に臙脂のニットをレイヤードしボトムスには白いパンツ、上着にライトグレーのチェスターコートを着ていた。首元にはバーバリーチェックのマフラーを巻いた。
大人の男性を思わせるコーディネートだ。
汐はまだだろうか、腕時計を確認しても先程から5分しか針が進んでいない。
すると、校舎の方から何人かの女子が歩いてきた。ようやく下校が始まったらしい。
汐はもうすぐ来る。凛はコートの襟を少し直した。
自分のそばを通り抜ける女子生徒から視線を感じる。
待ち伏せ?待ち合わせ?、大学生かなー?、スピラノの女子生徒の大きすぎるひそひそ話がチクチクと刺さる。
心の中で汐の名を呼んだ。早く来てくれ。
「凛くん」
自分を呼ぶ声がした。この呼び方をする人はひとりしかいない。その声の主を探す。
すると自分のすぐ横、距離にして1メートルほどのところにその声の主がいた。
制服の上にチャコールグレーのPコートを纏っている彼女は凛の姿を認めるとふわりと微笑んだ。
「汐」
「凛くんお待たせ。寒い中待たせてごめんね」
汐に歩み寄る。抱きしめたい衝動に駆られる。しかし場所を弁えてそれはしなかった。
代わりに汐の頭を軽く撫でる。
「いや。気にすんな。それよりクリスマスまで学校お疲れさん」
「うん、ありがとう」
汐と合流してからというもの、先ほど以上に通り過ぎる女子たちの視線が刺さる。が、凛はそれを気にしないことにした。
「スピラノ、イルミネーションすげぇな」
「ねー。ほんと豪華。あたし達の学費が光ってる!」
「お前、そんなロマンのかけらもねぇこと言うなよ…」
とてもいい笑顔でロマンをぶち壊すようなことを言われてしまった。
確かに汐の言う通りなのだが、凛は眉間を押さえる。