Destination Beside Precious
第7章 5.Illuminate The Darkness
「あーこれね、再提出」
「は、再提出?なんで?」
見た感じ志望校の欄は埋まっている。
どこに再提出の理由があるのかわからない璃保は眉を寄せた。
「…保護者欄空白だから」
「…そう」
「うん」
「アタシが筆跡変えて書いてあげようか?」
「いやーそれは流石に璃保でも怒られちゃうでしょ」
幼い頃ずっと習字を習っていた璃保は字がとても上手かった。
璃保の手にかかれば少し筆跡を変えるだけで、第三者が書いたといわれても何ら不思議ではない字を書くことが出来る。
「汐、ほんとにいいの?」
「…うん。ありがと璃保」
真面目な声音に汐は目を伏せる。
「そういえばアンタ志望校どこ書いたの?」
見ていい?と声かけてきた璃保に、再提出になった進路希望調査を手渡した。
なにも言わずひとしきり眺めた後に璃保は用紙を返した。
そしてひとことこう言った。
「アンタもアタシと似たようなものね」
「え…」
「アンタもアタシも、はやくやりたいことを見つけるわよ」
「…!、そだね」
なにも言わなくても璃保は自分のすべてを理解している。教師や他の人は欺けても、璃保には通じない。すべてお見通しだ。
つくづく汐はそう思う。
「じゃあアタシはそろそろ戻るわね」
時計を見ると次の授業開始2分前になっていた。
璃保は元の自分の席に戻っていった。
ひとりになった汐は進路希望調査の用紙を見つめた。
(やりたいこと…)
いまいち腑に落ちない。
やりたいこと、好きなことも含まれるだろうか。
しかし好きなことと言われても、そちらもいまいちピンと来ない。
汐は溜め息をついた。
(こんなとき、凛くんだったらなんて言うかな…)
凛の顔を思い浮かべた。
(…でも、凛くんには言えないな)
凛には明確な将来の夢がある。
自分はどうなのだろう。
高校2年の冬。もうそろそろ曖昧でも自分の未来像を見据えなくてはいけない時期だ。
それなのに未来の姿が見えなくて立ち止まっている。
夢にまっすぐな凛にこんなことで心配かけたくない。
そう思うと凛には話せなかった。
(進路選択、か…)
まだ先のことだと思っていたのに、段々と後ろに迫って来ているのを感じた。
胸がちくりと痛んだ。瞳が翳る。
用紙には適当に埋めた志望校が並んでいる。
自分は一体何がしたいのだろう。
汐は知らず知らずのうちにスカートの裾を握りしめていた。