Destination Beside Precious
第7章 5.Illuminate The Darkness
「…もうすぐクリスマスだな」
「そういえばそうだね」
クリスマスまであと2週間。
まるで忘れていたような言い草の汐に少し眉を顰める。
若干違和感を感じつつ、凛はそれを気に止めない振りをして続けた。
「その、クリスマス…」
「あー、クリスマスねー…学校なんだ」
「は?」
嘘だろ、と思わず凛は足を止めて汐を見つめた。
「…うちの学校…スピラノはミッションスクールなの。だからクリスマスまで学校で最終日にはミサがあるの。あれ、言ってなかったっけ?」
「クリスマスに学校あるとは聞いてねーよ…」
「うそ、ごめん凛くん」
眉を下げながら汐は凛の腕に抱きつく。
スピラノがミッションスクールであることをすっかり忘れていた。
ミッションスクールにおいてクリスマスはある意味1年で1番大切なイベントだ。
汐は全く悪くないのだが、汐を責めたくなる。
凛はなんとかその気持ちを抑えて歩き出した。
黙ってしまった凛に、汐は自分のせいで凛を落胆させてしまったと思い込み、ごめんね、と一生懸命謝る。
そんな汐が健気で可愛くて凛は先ほどのやり場のない気持ちがどこかへ飛んでいった。
「そんなに謝んな。汐は悪くねぇよ」
「…でも凛くん…」
「お前かわいいな。俺のことは気にすんな」
自分の腕に抱きつきながらしゅんとする汐の頭を撫でてやる。
「凛くん」
「ん?」
「学校、6時には終わるから…」
「そうか。さんきゅ」
さらさらと柔らかい髪の毛を撫でながら凛は頬を緩めた。
うん、と頷きながら汐は腕から離れた。
街のネオンが妙に眩しく感じた。
「暗いし寒ぃし、気ぃつけて帰れよ」
「うん。凛くんありがとう」
駅に着いた。
改札の前でいつも通りの挨拶を交わすと汐はじゃあねと改札の向こうへと歩き出す。
いつも通り途中で振り向く汐に一瞥をくれると、凛は寮へ帰るべく踵を返す。
(そうか、クリスマスは学校あんのか汐…)
実はクリスマスの夜のデートプランを凛なりにいろいろと考えていた。
しかし肝心の汐がクリスマスに学校があるため、大半が実行不可能になってしまった。
すばやく思考を切り替える。
凝ったデートはできなくても、なんとか汐を喜ばせてやりたい。
どうしたら汐は喜んでくれるだろうか。
凛はそれだけを考えて雪の降る寒い夜道を歩き出した。