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Destination Beside Precious

第7章 5.Illuminate The Darkness



「夏貴ご飯ありがとね」
テーブルにはシチューとパン、サラダが並べられていた。
夏貴が用意した夕食だった。

「じゃ、いただきます」
シチューをスプーンですくい、口に運んだ。
温かい。とても美味しい。


「夏貴、今日はスイミングお休みなんだね」
帰宅した時に汐が首をかしげた理由はこれだった。
毎週この曜日のこの時間、夏貴は不在だった。

「コーチの都合で今日はお休み。でももともと休みだった日に振替トレーニングみたいなのあるからあんまり変わりないよね」
「そうなんだ」
部活としての水泳を引退しても、スイミングスクールの引退は3月だからまだ中学水泳は続けている。

「12月の終わりにまた遠征があって僕家にいないから」
夏貴の話によると、どうやら今度は大阪で大きな大会がありそれに参加するらしい。
今年度の佐野SCは夏貴を筆頭に速い選手が揃っていた。
そのためか、今年は去年と比べて遠征が多かった。
年末は家にいたかったと夏貴はぼやく。


「ね、すごく話がかわるけどいい?」
「ん?どうしたの姉さん?」
「三者面談とかってある?」
一瞬だけあたたかな夕陽の瞳はひどく醒めた。
しかしそれは本当に一瞬だけで、次の瞬間にはどこか達観したような表情で語りだす。

「三者面談って、公立受験の人がするものだと思ってる。僕の場合は向こうからスカウトしてきたし成績だって問題ないから三者面談は必要ないって思ってるよ」
それに学費のほうも問題ないでしょ、と夏貴は嘲笑気味に付け足す。
唇の端を上げる弟を見て中学生の頃の自分を見ている気分になった。確か自分も同じような感じだった記憶がある。

「姉さん」
「ん?」
「ごめんね、変な心配させちゃって」
達観したような表情はない。
かわりにあったのはいつも通りの穏やかな夕陽だった。

「ああ、あたしこそごめんね」

「ね。姉さん。姉さんは姉さんのままでいいよ。僕の〝お母さん〟にまでなる必要はないよ」

自分の心配を見抜かれた。だから夏貴はこう言ってくれたのかもしれない。

「食べよっか。今日ね、隠し味に昆布茶を入れてみたんだ。姉さんこの前言ってたでしょ」
せっかく夏貴が作ってくれた夕食が冷めてしまう。汐は話を切り上げて食事に専念しようと思った。
大事な弟が作ってくれた料理。何故だか今日はいつも以上に胸にしみた。
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