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Destination Beside Precious

第7章 5.Illuminate The Darkness



汐は自宅の玄関を開けた。
見ると、靴が一足綺麗に揃えて置いてあった。
外から見ても家に明かりがついていたから誰かしら帰ってきていることは明らかだった。


(夏貴帰ってきてる)

その靴の持ち主は夏貴だった。
そして汐はふと首をかしげた。


(あれ、でも今日って…)

汐の記憶では、夏貴はこの曜日のこの時間は家にいなかったはずだ。
そんなことを考えながら明かりのついているリビングの扉を開けた。

「夏貴、ただいま」
「あ、姉さん。おかえり」
夏貴は柔らかな笑顔を浮かべて姉を迎えた。
白いケーブルニットを着た弟は穏やかで優しい笑顔で汐を見つめる。多くの人はこの笑顔に惹きつけられるだろう。
しかし汐は見逃さなかった。
夏貴が、汐が入ってくるのと同時に紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだことを。そして顔を上げた夏貴が驚いた表情をしていたことを。
紙を捨てていたとき、夏貴はひどく醒めたような顔をしていた。

「寒かったでしょ。ご飯出来てるよ」
何事もなかったかのように夏貴はキッチンへ向かった。
おそらく汐が紙を丸めてゴミ箱に放り込んだ様子を見ていたことには気づいていない。

夏貴の後ろ姿を眺めながら汐はちらりとゴミ箱へ視線をやった。
普段夏貴は紙などを丸めて捨てるような人ではない。
あの醒めた瞳が気がかりだ。苛立っていたのだろうか。


(あ…)

そういうことか、と汐は納得した。
丸められた紙から〝授業参観のお知らせ〟という文字と〝三者面談の実施について〟という文字がのぞいた。

「そんなとこに立ってて、どうしたの姉さん?着替えておいでよ」
その間にご飯用意しておくから、と夏貴はキッチンから汐に声をかけた。
声も表情も優しくて、先程の醒めた目など微塵も感じさせなかった。
大半の人は先程のそれは気のせいだったと思ってしまうだろう。

「夏貴、今日お母さんは?」
「知らない。仕事でしょ」
そっか、とだけ返して汐は自室へ向かった。
自分も夏貴もこの時間に家にいることなどほとんどないから、不思議な感覚を覚えながら階段を上った。
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