第9章 囁きアドバイザー
逃げなきゃ。
また、
またヤられる。
気力で足を動かすよう命じ、向きを反転させ来た道を戻ろうとした。
一瞬にして体中に冷や汗が流れ落ちる。
息を荒くしながらも、精一杯に逃げるための一歩を踏み出した。
しかし
「よう、また会ったな。お前とは気が合いそうだ。なぁ、クソガキ。」
気付けば既に肩に手を置かれ、進むことを妨げられていた。
「はぁ…!あ、ぁあ…。は、ぁ。」
「やけに息が荒いな。俺見て興奮でもしやがったか?悪ぃけど男に乗られる趣味はねえぜ。やっぱり気持ち悪ぃ。」
再び会ってしまった。
3日前に路地裏で出会い姉の事件に関係している、あの男に。
(やめろ…。やめてくれ…!怖い…助けて、結希さん…!)
「あ、そうだクソガキ。俺のお願い、ちゃんと聞いてくれたよな?」
「お…おね、がい…?……うわっ!?」
掴まれていた肩を一気に引っ張られ、男と正面を向く体勢にされた。
正面に見えると、あの時の恐怖がフラッシュバックする。
目を反らそうとするも、恐怖のあまり目すら動かすことがままならない。
「なに、忘れたのかよ…バカめ。話になんねえ。」
…思い出せ。思い出すんだ俺。
今答えられなければ確実にまたヤられる…!
俺はこの男と、あの時何を話した…!?
バカにされた話か?
姉ちゃんの話か?
いや…、他に何か言っていた…。
俺が途中、遮ったあの話だ…!
思い出せ!
思い出すんだ!!
「ぁ…。ダウンロード…ゲームの話だ…。」
「思い出したか。答えられなかったら殴ろうと思ってたが…、命拾いしたな。クソガキ。」
そうだ、ゲームをダウンロードしてくれと頼まれたんだ…。
ひとまず第一の難所を突破しただろうか。俺は胸を撫で下ろした。
「で、したのか?してねえのか?どっちだ。」
「し…、して…いません…。」
「なんだよ。めんどくせぇクソガキだな。姉ちゃんの事件こと、知りたくねぇのかよ。」
「…!?…事件。姉ちゃんの…事件…!」
この男は、あの事件に関わっている。
姉ちゃんの謎を探るにはこの男に従った方がいいのだろうか。
しかし、それはリスクが大きすぎやしないか。
…まず、どうすれば。
そうだ。
名前…聞かなきゃ。