第8章 路地裏コンテニュー
─憧れているなら、何で一前寺に来なかったのよ。
聞いてしまった。
何故、こう…不都合な方へ方へと行きたがるのかしら。私。
ほら、千歳だって呆気にとられている。何で聞くんですか?そういう表情だ。分かりやすい。
もし彼がピッチャーだったら、そのチームは勝つことがまず無いだろう。次に投げられるボールがバッターに丸分かりだからだ。
「…行こうとしました。もちろん、磯崎さんを追いかけて。一緒に…野球したい、って…。でも、
…落ちました。」
落ちた…か。そんなもんだろう、受験なんて。受かる人など、毎年中高合わせて100人強いるというのにほんの一握りに近い。
彼はその一握りに入る事が出来なかっただけだ。それが中学受験で良かったじゃないか。
磯崎は一前寺高校にいるのだから、高校受験で受かればいいのだから。
「…そう。残念だったのね。まあ、高校受験頑張りなさいよ。あたしの後輩になっときなさい。自慢できるわよ。」
「へへ…そうですね。そうなれば、ちゃんと自慢します…!」
弱々しく笑う千歳は何故か涙をそそる。
きっと、自分には磯崎を追いかける資格がないのか、など沢山自分を攻めたのだろう。
今はその悔しさを踏み台にして、また一歩踏み出して行けばいい。
「…結希さん。…俺、男の人に会いました。倒れる前に…。」
しばしの沈黙のあと、千歳が口を開いた。
ようやく心を開いてくれたようだ。
話す気になってくれたので私は直ぐに千歳の話を聞き入る体勢になった。
「その男の人に…、その…色々言われて、反抗…したら殴られたんです。それで、気を失ってしまったみたいなんです…。」
「そいつの…、男の人の名前は聞いたの?」
「い、いえ。…聞いてません…。忘れてました。ご、ごめんなさい…。」
「…それどころじゃ無かったんでしょ?構わないわよ。
…で、その男に
何を言われたのか、教えてくれるかしら。」