第8章 路地裏コンテニュー
その磯崎爽人のポジションは、一年生の内は外野でセンター。二年はショート、三年でもショートを守り主将を果たす。
そして高校に上がり、又しても一年生にしてレギュラーになっていた。ポジションはライト。
監督も磯崎のプレイを観てきたはずだが、さすがに一年生に内野を任せることはできなかったのだろう。
これほどの超絶逸材を世間がほっておく訳もなく、磯崎爽人の存在はたちまち世間に広がった。ニュースにも取り上げられるほど有名人になってしまったのだ。
しかし、有名になったのは磯崎爽人だけではない。彼が所属している県立一前寺高校の野球部も、彼が入ったことにより力を上げ、夏の甲子園で見事準優勝をした。
これがきっかけになり、プロ入りが決まった三年生の選手も数人ほどいる。
いわば、磯崎爽人は一前寺のヒーローなのだ。
(こんな有名人だし、憧れるのは珍しくもないわよね。同じ一前寺市出身なら…。)
「あたしもソイツ知ってるわよ。あたしの後輩じゃない。」
「え!そうなんですか!?結希さんって一前寺高校の生徒だったんですね!!話したことあるんですか?」
「いや…ないわね。」
お互いが苦笑いをして顔を見合う。
その瞬間、一つの疑問が思い浮かんだ。
聞いたところで、何もないが…。
「あんたさ…」
ピピピピピ…と、自分のスマホが鳴った。あぁもう、と苛立ちながらスマホを手に取った。
(あぁもう後藤田…!もうちょっと待ってなさいよ!!わざわざ電話しなくてもこっちは緊急相談室?の真っ最中なのよ!?)
電話に出ることなく、画面上の受話器がダウンしてある方に指をスライドさせた。
止まる着信音。また電話が掛かって来ないよう、一度電源を切る事にした。
「良いんですか?電話。」
「いいのよ。あんたが気にする事じゃないわ。」
「なら、良いですけど。さっき何を言いかけたんですか?あんたさ…って。」
やっぱり聞かないべきだろうか。聞いて答えられても、反応に困ったり私には関係なかったりするかもしれない。そんな事、街一番の不良の恥じゃないか。
第一、それが千歳が倒れていた事に何の関係があると言うのだ。聞かなくとも、支障はない。むしろ聞いてしまった方が、話が逸れて都合が悪い。
「怒らないで聞きなさいよ。
あんた磯崎に憧れてるなら、何で一前寺に来なかったのよ。」