第8章 路地裏コンテニュー
「あんた、野球部なんでしょ?初宮中の。背番号が3番ってことはファースト…かしら?守ってんの。」
「はい、よく…ご存知ですね。野球に興味とかあるんですか…?」
お、意外と食い付いた。野球部で野球大好きなんて、野球バカじゃないか。可愛いな。
生憎、野球にはあまり詳しくはない。が、可愛い千歳のために精一杯の知恵を振り絞ろう。
「ま、ちょっとね。全然分からない訳じゃないわ。好きな選手とかいるの?」
「好きというか、憧れの選手ならいます。」
少し考えた素振りをしてから答えた千歳。
膝に肘を付いた状態の私は野球バカな上真剣なんだと思った。
「へぇ、誰なの?相当上手いわけ?」
「磯崎爽人(いそざきさわと)っていう選手です。小5の時に磯崎さんの試合観に行ってから…磯崎さんに憧れてるんです。」
誇らしげに語る千歳の瞳には、輝きともう一つ悲しみの色が見えた。
(何で、悲しそうな顔をするのかしら…。)
話しを聞き逃さないように、その千歳の瞳をじっと見つめた。
「格好良かったのねその人。球団どこ?ジャイ●ンツ?日●ム?」
「…。一前寺高校の野球部ですけど。」
「あぁ、一前寺ねぇ。あそこも頑張らなきゃ……。って一前寺高校!?」
一前寺高校なんて、私と同じ高校じゃないか!!
(大人じゃなかったの!?)
てっきり彼が憧れているのはプロ野球選手かと思って話していた自分が恥ずかしい。
「はい。一前寺高校・野球部 一年生にしてレギュラーの磯崎爽人さんです!」
(一前寺の一年生なんて、あたしの後輩じゃない…!)
私が通っている『県立一前寺高校』は中高一環学校で、『県立一前寺中学校』の受験に合格した人は、一前寺高校まで高校受験しなくとも進級できる学校だ。
もちろん別の中学校の出でも、県立一前寺高校の受験に合格すれば入学することはできる。
彼が言っていた憧れの選手『磯崎爽人』は一前寺中学の受験に合格し、
突如として無名だった一前寺中学の野球部に現れ、中学一年にして一前寺中学のレギュラーを勝ち取ったのだ。