第8章 路地裏コンテニュー
その行為を5秒ほど続けたら千歳が私の肩を掴んで、無理やり離そうとしてきた。
「い゛っあ゛ぁ…!もっ、もう…やめて、下さ…い!」
がっちり掴んできて、食い込みそうだ。
痕が付くと親に誤解されると判断した私は、最後に強く押して千歳から離れ、元の体勢に戻った。
痛みから解放された千歳は自分の腹を守るように丸くなり、荒くなった息を整えている。
「答えなさいよ。何故倒れていたか。その腹の痛みは何か。」
涙目になった顔を震えながらゆっくり上げて、一呼吸おいてから答えた。
「殴られた…はずです。腹と顔を。」
「それは知人にやられたの?それとも赤の他人?」
「…何でそこまで答えなくちゃなんないんですか!?あなたも中学生ですよね!?…結希さんだって、こんな時間に何してたんですか!!」
(…バカじゃないの。)
立ち上がって大声で言う千歳を上目遣いで睨む。
(このあたしを中学生と間違えるなんて一億年早いわ。)
「…悪いけど、あたし…高3だから。」
目を見開いた千歳は何とも言わず失礼だ。私は周りの人間より背が低い。きっとコイツも見掛けで判断したんだろう。
「はぁ、まぁいいわよ。座りなさい。…一度話題を変えるわね。」
と言っても何の話をしたらいいだろうか。彼は野球部なんだし野球の話でもしてみようか。
するとその時、自分のケータイが鳴っていることに気が付き、確認すると後藤田からメールが届いた。
〔今どこにいる?早くしないと薬局が閉まるぞ。〕
(そうだった…。あたしコイツ等待たせてるんだった…。)
大きな溜め息をして返信画面に移ると、どうしたんですか?と千歳が聞いてきたので、「別に、何でもないわ」と答えた。
私は後藤田に〔道に迷ったみたい。悪いけどもう少し待ってて?〕と送った。
18年近くこの街で育ってれば、この辺りで道になんか迷うはずがない。が、今は迷ったことにしよう。仕方ないから。
ケータイを再びポケットにしまい、脚を組み直し千歳に語りかける。