第8章 路地裏コンテニュー
立ち上がり少年の前から退いて、隣に座る。
足を組み、両手を背もたれにかけて広げた状態になった。
「…あたしは一五結希(いちいつ ゆうき)。」
「……はぁ、そう…ですか…。結希さん…。」
困ったような顔で少年は私の名前を復唱する。
そのまま、また黙り込んでしまったので調子が狂いそうだ。
このような事に馴れていない証拠だろう。つまりこの少年は普段から夜逃げなどはしないようだ。
「…や、そうじゃなくて。あたしが名乗ったのよ!?あんたも名乗るのが普通じゃない?」
「ぁあ、すいません。千歳です。千歳龍也(ちとせ りゅうや)。」
「ぁっそ。千歳ね。
あんた…何であんな所で倒れてたの?」
「え…。……腹が減ってただけですよ。本当に…。」
彼が言い終わる前に、千歳のお腹が鳴った。すこし恥ずかしそうに苦笑いをして、ほらね?と言ってきた。
「じゃあ何よ。その口の中を切ったみたいな血は。」
「腹が減りすぎて、血反吐でも吐いたんですよ。きっと。」
「…なら、これは?」
千歳に覆い被さるようにベンチに手を着く。
そして千歳の腹を撫でてから、意地悪く、それでもかるく腹を押した。
「ぅぐっ…!あっ…ぁあ!…痛いっ…。」
丁度、痛みに苦しむ千歳の顔が私の右肩に乗った。千歳が前のめりになれば体勢的にそうなる。
耳元で喘ぎ声が聞こえる。少しくすぐったいが、何故かそれが悪い気分ではなかったので続けた。
(他人から見たらどんな状況かしら。…ただのドSにしか見えないわよね…。そんな趣味はないけど。)