第7章 一塁メモリーズ
練習の時にかいた汗がまだ乾いてない。
夜風に吹かれて、身体がとても冷える。
(着替えだけでもして来ればよかった…
でも、あんな態度をとる父さんが悪い。自分の行いにせいぜい後悔しとけ!!)
父さんのことを考えると次第に足が早まった。気付いたときには全力で走っており、体が温まった。
(こんな事してる場合じゃないんだけどな。)
立ち止まり、俯いて悲しそうな顔をしていると前方に自転車に乗った巡査警察官(いわゆるお巡りさん)が見えた。
急いで近くの路地裏に駆け込み、それが通り過ぎるまで過ごした。
「…良いところで会ったなクソガキ。」
ハッとして振り向くと、路地裏の奥の方に人影が見えた。暗闇で見えにくいが、180cmはあるだろう背丈の男性が俺に手招きをした。
疑いながら近付いてみて顔は伺えたが、どうも見覚えがない。
この男の勘違いか、はたまた俺の勘違いか…。
「…その様子じゃぁ、俺のこと覚えてないようだな。バカな上に失礼な奴。」
「は、はぁ…。すいません。」
クソガキやらバカやら、さんざん俺のことを罵っているこの男の方がずば抜けて失礼だと思うのは俺だけだろうか。
「3年前だ。」
「え…?」
「3年前に、俺達は一度会ってるんだぜ?忘れられちゃうと、お兄さん悲しいなー。そうだろ?クソガキ。」
何この変なお兄さんは。今すぐ逃げたい。まったく、とんでもない人に捕まってしまった。
3年前に一度会っただけなのに、覚えている方が凄いと思わないのか。
まあ、現にこのお兄さんは覚えているから凄い。
「あ…あの、何かご用ですか?俺、急いでますので、手短にお願いしたいんですけど…!」
「あ?とことんムカつく野郎だな。
まぁいい。
3年前にお前の姉ちゃんが死んだだろ?」
は、は?
このお兄さんは何を唐突に言っているんだ。
やっぱり頭が可笑しいんだこのクソ兄さん。
俺は驚きのあまり顔色を変えることが出来なかった。