第7章 一塁メモリーズ
「はぁ。さ、早よお座り龍ちゃん。冷めてまうわよ?」
机に置かれた自分用の夕飯を見て腹の虫の鳴き声が増した。
しかし、父親と言い争いになってから静かに夕飯を食べる気にはなれなかった。
― 今、父さんと同じ場所に居たくない。
「ばあちゃん…俺、やっぱりいらない。」
居間を出て、再び玄関に向かう俺の後をばあちゃんが追ってきた。
「いらんって…、またどっか出掛けるん?」
「うん。」
「この時間じゃあ…もうダメなんちゃう?学校の人達に見つかったりしたら、龍ちゃん…あんた停学なるかもしれんのに…」
「大丈夫だよ。心配しないで。」
靴を履き終えて、玄関の扉に手を掛けた。するとばあちゃんが少し小さな声で、
「お父さんには…、ちゃんと言うとってあげるけんね。」
と言った。
「…うん。…行ってきます、ばあちゃん。」
微笑みながら言ってくれたばあちゃんに、俺は微笑みながら返した。
何を悟ってくれたかは分からないが、外出の許可をくれたばあちゃんに感謝している。
まだ野球の練習着のままなので、パトロール中の巡査警察官に見つかれば直ぐに学校に知れ渡るだろう。
でも今の俺にはそんな事関係ない。
疲れきったこの心と身体を夜風で吹き飛ばしたいのだ。
秋の夜空は帰ってきた時と同じで、星がちらちら光っていた。
ただ目的も無く、ひたすら歩く背番号3番の少年が夜の大通りに消えていった。